八 イノリ
○洞窟の中です。かなり大きい。
【アクア】「やっほーー」
○こだまが洞窟の中で響く。
【シリウス】「やっほーーー」
○こだまが帰ってくる。
【ボビー】「タスケテエーーー!」
○こだまが帰ってくる。
【アクア】「……だめね」
【シリウス】「だめだあ。……これは本格的に遭難だなあ」
【ヨハン】「だから、無理ですと言ったのに……」
【シリウス】「やらないよりはマシでしょう。そもそも貴方がこそこそしているから、私たちはついてきちゃったんですよ? この後始末、どうしてくれるんですか!」
【ヨハン】「それは、い、いいがかりですよ〜。私だってついてきているなんて、知りませんでしたし……」
【シリウス】「ええ、いいがかりですよ。わかってますよ。自覚してますよ。あ〜! もう! なんで、こんなことになっちゃうかなあ!」
【ヨハン】「土砂崩れに巻き込まれずに済んだのは、よかったんですけどねえ」
○三人、冷たい洞窟の中を見渡す。
【アクア】「とっさに魔法で穴をあけたのは正解だったわ。先生、さすが」
【ヨハン】「はは、どうにかこうにか」
【シリウス】「まさかその先にこんな立派な鍾乳洞があるとは思いませんでしたけどね。……そして、私たちは真っ逆さまというわけだ。やれやれ、どう脱出します。(岩壁を叩きながら)私たちがこんなところで助けを呼んでいるなんて、まず誰もわからない」
【ヨハン】「そうですねえ。(のんびり)」
【アクア】「……そうねえ。(のんびり)」
【シリウス】「君たち、助かる気あるんですか?(マジギレぎみ)」
【ヨハン】「もちろんですよ。私はまだまだ、生きてやりたいことがありますからね」
【シリウス】「そうだ、あなたせっかく魔導師なんですから、どかーんと上に穴でも空けて下さいよ。花火の要領で、あの土砂崩れをどかすくらい、わけないでしょう?」
【ヨハン】「無理です」
【シリウス】「どうして!」
【ヨハン】「ここでは火炎系の魔法が使えないんです。霊気も溜まりすぎてますし……。ここでその、魔法を使うと、そのまま私たちもこなごなに……。はは」
【シリウス】「えーーーっ!」
【ヨハン】「外から打つのなら別なんですけどねえ」
【アクア】「ひと、それを役立たずと言う……」
【ヨハン】「……うっ……面目次第も……すみません」
【シリウス】「……それじゃあ発見してもらえるのを待つしかないってことか……。やれやれ、とんだお祭り騒ぎだ。頭がくらくらしてくるよ」
【アクア】「……上の方、全部土砂で埋まっちゃったわね。……どうする?」
【ヨハン】「出られそうな場所を探すしかないですね。ここでは魔導師であることも、剣士であることも役に立たないようです」
【シリウス】「そのようですね。ふう。さて、では出口を探しますか」
【アクア】「……あっちから、水の音が聞こえるわ。外に近いかも」
【シリウス】「どこだっていいですよ、ここ以外なら!」
【ヨハン】「あ、待って下さい! 明かりがないと、転びますよ!」
○先行するシリウス、早速転ぶ。
【シリウス】「わっ!」
【ヨハン】「あ〜、遅かった……」
【アクア】「……のーぷろぶれむ。転んだくらいじゃしなないわ」
【それより……」
【ヨハン】「はい?」
○アクアのお腹が鳴る。
【アクア】「おなかすいた……」
○視点、ユニシス側へ。土砂崩れの現場。雨は降り続けています。
○騎士院の人たちが総出で土砂を掻き出している。
【ユニシス】「……ひどい……」
【ソロイ】「リュート、アークの様子はどうだ?」
【リュート】「ベッドに縛り付けておきました。葵さんとマリンさんが監視してくれていますし、おとなしく寝ていると思いますよ」
【ソロイ】「そうか。病み上がりにまた倒れられても、面倒が増えるだけだからな」
【リュート】「本人は怒ってますけど」
【ソロイ】「お前が適当にフォローしてやれ」
【リュート】「はい」
【ユニシス】「ソロイさん、早く! 早く掘り起こそうよ! なあ、どこからやればいいの?」
【ソロイ】「今、手がかりを捜しているところだ。やみくもに掘り起こしても、時間の無駄だからな」
【ユニシス】「わかった、手がかりを探せばいいんだな! じゃあ、俺も!」
【リュート】「あ、待って。ユニシス」
○走り出すユニシスをリュート呼び止める。
【ユニシス】「なんだよ、急ぐんだろ!」
【リュート】「それはもちろん急ぐけど。ねえ、君は魔導師でしょ? 魔法でどうにかできないの?」
【ユニシス】「そ……そんなの……魔法ってのは、奇跡の力じゃないんだから。すぐに居場所を見つけたりするなんて、無理だ」
【リュート】「ああ、そこまでは期待してないよ。でも、手がかりのありそうなところを絞りこんだりはできない? 花火が作れるなら、あの頑固そうな落石も壊せたりしない?」
【ユニシス】「……そ、それは……できると思うけど。せ、先生がいれば」
【リュート】「ユニシス、時間がないんだ。できることをやって欲しい。今、ここに魔導師は君しかいないんだ」
【ユニシス】「ほ、他の奴らは?」
【ソロイ】「魔法院の者たちは他の場所で活動している。……土砂崩れはここだけではない」
【ユニシス】「……そんな! だって、こっちには人が埋まってるかもしれないのに!」
【ソロイ】「民を公平に守るのも治める側のつとめだ」
【ユニシス】「……!」
【リュート】「できるよね? 君、くやしいって言ってたじゃないか。ちゃんとやってるのにって。今こそ、それを見せる時だろう? みんなを助けるんだ、君の力で」
【ユニシス】「リュート……俺……俺、できない」
【リュート】「え?」
【ユニシス】「できない。わからない。全然わかんない。俺、最近全然ついていけなくなってて。先生の言ってること、本当なんだ。俺、さぼってた。魔法の勉強。だから、わからない。全然わかんないんだ、どうしよう」
【ユニシス】「アクアがいるから、別にいいって思ってたんだ。俺がやらなくたって、大丈夫だって。でも、俺のせいで助からないのか? 俺が頑張らなかったから? ……俺、どうすればいいんだ!?」
【リュート】「……ユニシス」
【ユニシス】「どうすればいいか、教えてくれよ! リュート、ソロイ様。……先生!」