「悪役令嬢と極道P」新連載のお知らせBlog

ドラマCD2「Aqua Balance」

十 ホシアツメ

○雨、いまだ降り止まず。山道近く。

【アーク】「ぜーーはーーー……」
【マリン】「アークさんー〜、やっぱり無理ですよ〜! そんな病み上がりで!」
【葵】「そうじゃ、そんな体で何ができる! そもそも、バカは風邪をひかぬはずなのに……死にたいのか?」
【アーク】「うるせーな〜、ついてくんなって言ったろ?」
【マリン】「行ったってリュートさんに怒られるだけですよ!」
【葵】「ソロイ殿からも言づてがあったではないか。養生せいと。上の言葉には従うのが、騎士であろう?」
【アーク】「……きいてねーんだよ、三人のメンツにバカ先生がいるなんざ」
【マリン】「……アークさん、先生のこと嫌いだったんじゃ?」
【アーク】「好きになれるか、負けっぱなしで。だから、生きててもらわなきゃ困るんだよ。俺にとっても、あの見習いにとってもな」

○遠くで落石の音。

【マリン】「……きゃっ!」
【アーク】「……また、落石か。まじぃな。ただでさえ、最近の雨で地面が緩くなってんのに。このままじゃ、街にも被害が出るぞ」
【マリン】「魔法院のみなさんが街の方は見ているみたいですから」
【アーク】「……それでも全然足りてねえな。……人捜しにさけるほど、騎士院にだって人はいねえし」
【葵】「だ、だからといって、おぬしが出ても仕方あるまい。今は、体を治すことが……!」
【アーク】「……俺はな、今できることをほったらかしておくのは嫌なんだよ。風邪ひこうが、腹が痛かろうが、知るか。体が少しでも動いて、やることがあって、できるなら、やるべきなんだよ。俺はごめんだ、あの時ああしてりゃよかったとか、こうしてりゃよかったとかで、愚痴をこぼして過ごすなんて。だから、嫌だったんだ。あいつを助けるのは。やることやらねえで、怒られて、いじけて泣きついて。子どもだからって言い訳、俺は一番嫌いだね!」
【マリン】「……アークさん」
【アーク】「……そんな顔すんな、バカ。お前のこと、言ってるわけじゃねーよ。……とにかく、俺は帰らない。お前らは戻ってれば。女なんだし」
【マリン】「……アークさんだって、病人のくせにやせ我慢!」
【アーク】「病人扱いすんなって言ってんだろ! もう治った!」
【葵】「これこれ、ここで争っても意味はない。まったく……仕方ないのう。……後で怒られるのはわかっておるだろうな?」
【アーク】「減俸二ヶ月」
【葵】「わかっておるのなら、私はもう何も言わぬ。……行こう。何ができるかは、わからぬがの」

○走り出すアークたちの前に、影が立ちはだかる。

【フードの少年(プルート)】「耳が痛いですね。……アーク」
【アーク】「……誰だ?」
【葵】「マントで顔が見えないが……アークの名前を知っている者か?」
【マリン】「……ユニシスさん……じゃないですよね?」
【フードの少年(プルート)】「私です」

○少年、フードを取る。

【マリン・葵】「……プルート様!(殿)」
【アーク】「星読み様が、なんでこんなところに!」
【フードの少年(プルート)】「あなた流に言うと……やれることをしに来ました。私の頼み事がこんな運命を引き寄せたのなら、責任は取るべきでしょう」
【アーク】「どういうことだ」
【フードの少年(プルート)】「……私がヨハンに頼んだのです。ユニシスのために『星』を手に入れて欲しいと」
【マリン】「……ユニシスさんのために?」
【フードの少年(プルート)】「そうです、彼のために。けれど、それは間違いでした。……ヨハンの言った通りでした。……間違いだったんです……。だけど、私は……彼に自分を重ねてしまった。……だから、こんなことに」
【マリン】「プルート様……」

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