「悪役令嬢と極道P」新連載のお知らせBlog

ドラマCD3「Aoi Romance」

七 なほ恋にけり

○神殿・夕方。雨が降っている。ざわめきの中を葵、歩いていく。

【葵】「……やれやれ。すごい降りじゃのう……。嵐にならぬといいが……」
【アクア】「あら、葵」
【マリン】「こんばんは〜、葵さん!」
【葵】「おお、アクア殿にマリン殿。おぬしらもソロイ殿の見舞いに来たのか」
【アクア】「……私は……先生のおつかい」
【マリン】「私は朝に行きました。今は授業が終わった帰りです。葵さんは?」
【葵】「は、はは、面目ない。私は寝坊してこの時間じゃ。もはや夕暮れじゃのう、はは。出遅れた」
【アクア】「あら、めずらしい」
【マリン】「あはは、昨日はばたばたしてましたし、しょうがないですよ」
【葵】「う、うむ。……様子、どうなのじゃ?」
【アクア】「昨日と一緒」
【マリン】「……私、いい子ですねって言われちゃいました。へへ……。なんというか、こうすごい優しくして頂いて! ソロイさんって、実はとってもたらしなんじゃないでしょうか! ……なんちゃって、えへへ……」
【葵】「マリン殿……」
【マリン】「でも、なんか……嬉しくない……。どうしてかな……」
【アクア】「……葵、お見舞いにいくなら、これ、届けておいてくれる?」
【葵】「ん? なんじゃこれは。薬?」
【アクア】「うん……今日の診察、先生が遅くなるからって」
【葵】「自分では行かぬのか」
【アクア】「……今日はちょっと、かんべん。……ソロイに頭を撫でられるのは屈辱だわ」
【葵】「……そうか。わかった。……承ろう。(葵、薬を受け取る」
【アクア】「ありがと」
【マリン】「葵さん、あの、頑張って下さいね」
【葵】「……奇妙な励ましじゃの。なに、ただ見舞うだけだ。心配ない」
【マリン】「は、はい。そ、それじゃ」
【アクア】「またね、葵」

○ふたりとも遠ざかっていく、それを葵見送って。

【葵】「……さて……はいるか」

○ソロイの部屋に入る。

【葵】「ソロイ殿?」
【ソロイ】「……」
【プルート】「……あ……。葵さん」
【葵】「……プルート殿。……おぬしが来ていたのか。(後ろ手に扉を閉める」
【プルート】「ええ、休憩の合間ですけど、顔だけでもと思って」
【ソロイ】「……」
【葵】「なんじゃ、寝ているのか」
【プルート】「ええ、朝方だいぶシリウス様に遊ばれたらしいですよ」
【葵】「あ、あやつめ……」
【プルート】「……責任を感じておられるのでしょう。別に、シリウス様が気に病むことはないのですが。もちろん、あなたもですよ?」
【葵】「……(なんと言っていいか迷いつつ)プルート殿……顔色がよくないな。(プルートの隣に座る) どれ、額を見てやろう」
【プルート】「え、いい、いいです。大丈夫です。……まあ、ソロイがいませんから、ちょっと忙しくて……いつもよりは疲れましたけど。でも、今までソロイにまかせ過ぎていた分、様々な意見が聞こえて勉強にもなっているんですよ」
【葵】「……おぬしは頑張りやじゃの」
【プルート】「……当然の努めです。私は星読みであり、この島を守る義務がある。……そう、本当なら……誰にも頼ったりしてはいけなかった。……今までがきっと、怠けすぎていた」
【葵】「プルート殿……」
【プルート】「……覚悟を決めるべき時がきたのかもしれません。私ひとりで、どこまで行けるのか。……彼がいなくても」
【葵】「……不吉なことを申すな。きっとヨハン殿がなんとかしてくれる。大丈夫だ」
【プルート】「……葵さん……。でも、思うんです」
【葵】「……何をだ?」
【プルート】「ソロイはこのままの方がもしかしたら幸せなんじゃないかって。……私と一緒に政治の世界に留まるより、何も知らない一兵卒として暮らしたら、それはそれで実りある人生かもしれないでしょう。あの、ヨハンの従者と同じような。……私ですら、時にこの道を迷うのに、星に定められたわけでもない彼を、どうして縛ることができましょう」
【プルート】「……彼にとって、私や世界は一番でなくても構わないはずです。……そうじゃありませんか?」
【葵】「……プルート殿」
【プルート】「……ソロイが記憶を失ったのは、彼自身がそう望んだ結果かもしれない。……だとしたら、私は……もう」

○荒々しいノック。

【神官】「プルート様、プルート様! いらっしゃいますか!」
【プルート】「あ、しまった……休憩時間、過ぎていました」
【葵】「無粋な。別に、少しぐらいいいではないか」
【プルート】「……私は、この神殿の主です。……行きます」
【葵】「……プルート殿、だが」
【プルート】「……独り言にしておいて下さい」
【葵】「……」
【プルート】「……大丈夫です。私には、神様がついていらっしゃいますから」

○プルート出て行く。オフ会話。

【神官】「あっ、プルート様! 東方管理の長老から、火急の面会希望が……」
【プルート】「例外はありません。控えの間に待たせておきなさい」
【神官】「それがどうしてもと、ごねていらっしゃいまして……」

○オフ終わり。

【葵】「……ふう……ムリをしすぎじゃ。プルート殿め。……あんな子どもであるのになあ……のう、ソロイ殿」
【葵】「……おぬしはこの世界の者じゃ。……戻るのに何のためらいがある。こんなにおぬしは望まれて……帰る場所があるのに」
【葵】「……羨ましいぞ。……異端の私には……」

○葵、薬を置き、椅子を立つ。

【葵】「さて、頼まれものも果たした。……帰るとするか」
【ソロイ】「……そういえば、あなたは漂流してここに着いたのでしたね」
【葵】「!」
【ソロイ】「……あまりに皆さんからの情報が多すぎて、失念していました」
【葵】「そ、ソロイ殿! い、いつから起きていた!」
【ソロイ】「はあ……あなたが入ってきたあたりから。葵殿の足音は特殊ですから」
【葵】「あ、草履か。いや、そんな理由を聞いているのではない! 起きているならば、起きていると言え!」
【ソロイ】「……言える雰囲気ではなかったように思うのですが」
【葵】「う……うう……そうかもしれんが言え! くそ……か、帰る」
【ソロイ】「なぜ、私などが羨ましいのです? あなたは私を嫌っていたのでしょうに?」
【葵】「……なぬ?」
【ソロイ】「あなただけではない。マリン殿やアクア殿。シリウス殿。……みな、言います。ソロイ=ブラーエという男は、日々怒っている者だったと」
【葵】「……そ、それば……間違っておらんな。正しい」
【ソロイ】「どうも、以前の私は酷く人を傷つける者であったらしい。人の気持ちよりも実を取り、ひとかけらの情もないような、無骨な剣士。好かれようなど、かけらも考えたことがなさそうな、ね。……もちろん、今の私が好かれるとも思えませんが」
【ソロイ】……あなたやシリウス殿はたぶん責任を感じでここにいらっしゃっている。私に負い目を感じているから、側にいようとする。そうでしょう」
【葵】「……ソロイ殿……」
【ソロイ】「ですが、私にしてみればそれは余計な同情です。私はすべてを忘れていて、しがらみもこだわりも感じない。……ならば、私に負い目を感じることは無意味となりえませんか。ソロイという者はもうどこにもいない。そう思えば」
【葵】「……よせ。そんな哀しいことを言うな」
【ソロイ】「どこがです? 私は前向きな提案をしていると思っていますが」
【葵】「……ソロイ殿……」
【ソロイ】「嫌いな人間が生きていない方が、世界は生きやすくなると思うのですが」
【葵】「誰が嫌いだなどと言った! あほう!」
【ソロイ】「……違いましたか?」
【葵】「……違っておらんが」
【ソロイ】「は?」
【葵】「……たしかに。私はお前が苦手だ。すぐに怒鳴るので耳は痛くなるし、白か黒かでしか話は通じぬし。何をするにも杓子定規で、つきあうのに窮屈この上ない。……確かにソロイという男は嫌われ者ではある。だがな。……消えてしまえばいいなどと、誰が思うものか」
【葵】「お前のような奴がいなかったら、それはそれでみんな困る。アークはどこまでも適当になろうし、プルート殿は倒れるまで働くであろう。私とて、お前がいなかったら……候補という地位に甘えて、遊び暮らしていたかもしれぬ」
【葵】「お前は、必要な人間だ。……少なくとも、私よりはずっと」
【ソロイ】「葵殿……」
【葵】「……すまん。私のせいなのに、説教などした」
【ソロイ】「誰か、あなたを責めましたか」
【葵】「……いいや。……誰も、責めてくれんから……困っておる」
【ソロイ】「そうですか」
【葵】「……どうして、こんなにこの国は私に優しいのだ」
【ソロイ】「……」
【葵】「……帰れなく、なるではないか……。……ここにいたくなるではないか。そんなことは、許されぬのに……」

○雨足早くなる。

【ソロイ】「……泣いているのですか?」
【葵】「……誰が泣くか! 雨が強くなっただけであろうが!」
【ソロイ】「……だったらいいのですが」
【葵】「……どうしたらおぬしは戻るのだろうな」
【ソロイ】「さあ……魔法のせいか、壁にぶつかったシヨックなのか、意見が割れていますからね。同じような状況が私が頭を打てば、戻るかもしれませんが」
【葵】「危険な賭じゃの。それで更にぱーになったら目もあてられん。……では……私は帰る!」
【ソロイ】「ひとりで帰れますか」
【葵】「私を誰だと思っておるのだ。日野平葵じゃぞ」

○葵、部屋を出て行こうとする。それの後についていくソロイ。

【葵】「なんじゃ、腹でもすいたのか?」
【ソロイ】「送りましょう」
【葵】「……いらんと言うておろうが。第一、おぬしは記憶がない。街に出ても迷うのがおちじゃ」

○部屋外のホールへ。遠雷がだんだん近くなってくる。

【ソロイ】「……ずいぶん雷が近くなりましたし」
【葵】「大事ない。当たったら当たったで、雷神を式にできるかもしれぬしな!」
【ソロイ】「……葵殿」
【葵】「いらんというに。これ、腕を離せ。危ないではないか!」
【ソロイ】「聞きたいことがまだあるのです」
【葵】「なに……?」
【ソロイ】「……私と貴方は、会ったことがありますよね」
【葵】「……何を今さらなことを言っておる?」
【ソロイ】「……いえ、それよりもっと前に」
【葵】「……何のことだ?」
【ソロイ】「ずっと、遠い、前から」
【葵】「……」
【ソロイ】「……私はあなたを知っているような気がする」
【葵】「……おぬし……?」
【ソロイ】「……私は、本当にソロイという者なのでしょうか」
【葵】「……馬鹿を言うな。おぬしはおぬしだ。……他のお前など、私は知らぬぞ」
【ソロイ】「本当に、そうですか?」
【葵】「……痛っ、腕を掴むなというに! ……わからぬ奴だな!」

○腕を振り払う。

【ソロイ】「……つ……」
【葵】「……とと、そんに強く振り払ったつもりはないのだが。だ、大丈夫?」
【ソロイ】「思い出して……きそうな気が……。(ソロイ、具合が悪くなって葵によりかかる」
【葵】「お、おい! ソロイ殿! しっかりせい!」
【ソロイ】「……っ」
【葵】「重っ……この、体格差があり過ぎるとゆーのに! 送るなどと言っておいて、根性無しが!」
【葵】「と、とにかく、た、倒れるならば……そっちへ倒れろ! こ、こっちは階段が……」
【ソロイ】「……七……姫」
【葵】「……っ」

○雷が落ちる。

【葵】「うわ!」
【ソロイ】「……!」

○地面が揺れる感じで、かなり大きく。ソロイと葵、ふたりとももんどりうって落ちる。
○遠くで神官たちの落ちたゾー!みたいなざわめき。マリンとシリウスもいる。

○オフ参考

【マリン】「わわー、雷! 雷落ちましたーー!」
【シリウス】「……被害状況を調べなさい! 内部の柱が倒れたら、大惨事です」
【神官】「は、はいっ。(神官、数人走っていく」

○オフ参考ここまで

【葵】「っ……い……いたた。く、重い……」
【ソロイ】「……う……」
【葵】「ソロイ殿! 大丈夫か!」
【ソロイ】「……」
【葵】「ソロイ殿! ……さきほど、私を何と呼ぼうとした……?」
【ソロイ】「……」
【葵】「……答えろ!」

○どたばたと人が集まってくる。シリウスとマリン、バルコニーの上にいます。

【マリン】「ソロイさーん、葵さん!? だ、大丈夫ですかー!」
【シリウス】「ちょ、まさか落ちたのかい? 何をやっているんだ、君たちは!」

○怒りながら階段をふたり、降りてくる。

【マリン】「ソロイさん! しっかりして下さい! 死なないで! 死んじゃだめー!」
【シリウス】「ヨハン殿を呼べ! 早く!」
【葵】「ま、待ってくれ! その前に、私はこやつに聞きたいことが……!」
【ソロイ】「……う……(ソロイ、起きあがる)」
【マリン】「ソロイさん! お、起きた!」
【シリウス】「無理に起きるな。今、人を呼ぶ!」
【マリン】「そうですよ! これ以上ぱーになったら、取り返しがつきません!」
【シリウス】「そうだよ、ぱーぷりんな君なんて、ひよこのないお風呂みたいなものだ! さあ、私が肩をかそう! 一刻も早く安静に……!」
【ソロイ】「……シリウス殿の助けを借りるなど、後が怖い。……お断りしておきます」
【マリン】「だめです、ソロイさん! ぱーが進行しちゃいます〜!」
【ソロイ】「……人を馬鹿よばわりするまえに、貴方にはやることがあるでしょう、マリン殿。手を離しなさい。私はひとりで立てます」

○ソロイ、立ち上がる。

【マリン】「ソロイさん……。いま……私の名前、呼びました……?」
【ソロイ】「は? 言いましたが、なにか? ……ん? なぜ、私は夜着など着ているのですか? 今の時間は執務中のはず……」
【マリン】「もどったーー! ソロイさーーん! (マリンソロイに抱きつく」
【ソロイ】「マリン殿! そういうはしたない真似は……」
【シリウス】「いつものあのかわいくなーいソロイ殿だ!」
【ボビー】「やったーー! (シリウスも抱きつく」
【ソロイ】「シリウス殿! な、何の嫌がらせですか! 離れなさい!」
【シリウス】「いいじゃないか、短く長かった邂逅なのだから! あー、よかった!」
【マリン】「本当です〜! ソロイさんにおこられた〜! う、嬉しいです〜!」
【ソロイ】「きょ、今日は……エイプリルフールでしたか……?」
【葵】「……ソロイ殿……」

○葵、ソロイの手をつかむ。

【葵】「……よかったな」
【ソロイ】「葵殿……」
【葵】「本当に、よかった……」
【マリン】「よかったです〜! えーん!(マリン、盛大に泣き出す」
【葵】「これこれ、マリン殿! 泣きすぎじゃ」
【マリン】「だって、だって……うわーん!」

○上の階に足音。

【プルート】「……ソロイ? ヨハンが診察に来ていますよ? どこに……?」
【マリン】「……プルート様! こっち、こっちですー!」
【プルート】「……ソロイ」
【ソロイ】「……よくわかりませんが、ご無沙汰しておりましたか? プルート様」
【プルート】「……戻ったんですか?」
【ソロイ】「よく、わかりませんが、はあ」
【プルート】「……」

○静かな音楽・プルート、階段を下りてくる。

【プルート】「(しずかに)……そうですか。……よく、戻りました。ソロイ」
【ソロイ】「……はい」
【ヨハン】「あの〜、もしかして、この状況って……。やっぱり記憶喪失、治っちゃいました? 私、今日のためにあれこれ魔法式組んできたんですけど……。難しい奴を……」
【シリウス】「あー、もちろーん」
【ボビー】「ムダー。大ムダー!」
【ヨハン】「うわっ、やっぱり……とほほ……」
【マリン】「いいじゃないですか、先生。失敗してソロイさんに怒られるよりは!」
【ヨハン】「……はあ、そうですね……」
【アクア】「残念……きちょうなじっけんだいだったのに……」
【葵】「これ、不吉なことを申すな!」
【ユニシス(オフ)】「先生ー! どこですかー! カート重くって……」
【マリン】「あ、ユニシスさんだ」
【シリウス】「どういう反応しめしますかねえ。……ソロイ殿に会って」
【ソロイ】「……ヨハン殿の従者が、何か? ……一度も会ったことはないと思いますが」
【ヨハン】「ええと……ソロイ様のファンなのかもしれません」
【ソロイ】「……は? ……つつ……」
【葵】「い、痛いのか?」
【ソロイ】「いえ、さほどでは……」
【葵】「……ソロイ殿。……べに……」
【ソロイ】「はい?」
【葵】「……いや、なんでも……ない……。よかったな。……本当に」
【ソロイ】「……はい」
【ユニシス(オフ)】「せんせーってばー!」
【マリン】「ユニシスさーん、こっちですよー!」

○ソロイ以外、少し含み笑いしてフェードアウト。

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