「悪役令嬢と極道P」新連載のお知らせBlog

ドラマCD3「Aoi Romance」

五 わらべ歌

○神殿・夜です。神殿には結構人がいなくなっています。ヨハン、ソロイを診察中。

【ヨハン】「ふーむ……」
【プルート】「ソロイ……」
【シリウス】「ヨハン殿、誤診したら殺しますよ?」
【アクア】「先生……信じてる」
【マリン】「ヨハン先生……」
【葵】「ど、どうだ。どこか悪いところは見つかったか?」
【ヨハン】「ちょ、ちょっとみなさん。体の中の音が聞こえなくなるので、耳元で騒がないで頂けますか」
【プルート】「あ、う、すみません。ヨハン」
【ヨハン】「い、いえ、プルート様に謝って頂くのも、はは……。ソロイ様が心配なのはわかりますけど」
【ソロイ】「……どこも、痛むところはないので、心配は無用だと思うのですが」
【ヨハン】「無用かどうかは私の方で判断致します。さ、右手を出してください」
【ソロイ】「はい」
【ヨハン】「ユニ。五番の水晶と、ラベンダーの小瓶半量下さい」
【ユニシス】「は、はい。し、失礼します」

○ユニシス、ちょっと離れたところからカーゴを寄せてくる。

【アクア】「あら、ユニシス……緊張してる?」
【ユニシス】「し、してたら悪いかよ! 神殿の中に入るの、はじめてなんだよ!」
【シリウス】「あ、そうか。君は身分が足りないんだった。はは、それじゃあ今回珍しいところに入れて得した……」
【アクア】「じー」
【マリン】「じろー」
【シリウス】「……はは、失言でした」
【ボビー】「ゴメンナサーイ」
【ユニシス】「だけど、びっくりしたぜ。神官が魔法院に来るだけでも珍しいのに、真っ青になって先生を呼ぶしさ。取り次ぐって言っても、内密だ、秘密だの一点ばりで……。俺、てっきり星読み様に何かあったのかと思ったよ」
【アクア】「……でも、驚き度でいったら、このソロイの方がびっくりどっきりだと思うの……」
【ソロイ】「……はい?」
【アクア】「ソロイ、私の名前はなーんだ?」
【ソロイ】「さっき教えて頂いた時には、グレゴール=サノバビッチ三世と……」
【マリン】「ああああ、アクアさーーん!」
【葵】「嘘を教えるな、嘘を!」
【アクア】「……と、まあ……ありえない嘘も信じちゃったりするわけで……」
【ヨハン】「アクアさん……そういういたずらはやめましょうね……」
【ユニシス】「そーだぞ、相手は病人なんだからな、一応さあ……!」
【ソロイ】「嘘? 私は嘘をつかれたのですか……?」
【シリウス】「そうそう、彼女の本当の名前は……って、そうか。アクア殿も記憶喪失だから、その名前もあながち嘘ではないかもしれないか」
【アクア】「ま、そうなんだけど」
【マリン】「あ……」
【葵】「……アクア殿……す、すまぬ。つい」
【アクア】「気にしないで。私はアクアよ。……それは、たぶん本当のこと。だけど、ソロイ。あなたは……自分がとてもあやふやなのね。……私の知っているあなたは、もっと人の言葉を吟味して、真実かどうかを確かめてから、心の中にいれていたわ。……あなた、おかしい」
【ソロイ】「そうですか……私は、おかしいのですか」
【マリン】「ソロイさん……」
【ソロイ】「そう、ですね。私は、あなた方がわからない。これほど親しげに話して頂いていても……。誰ひとり、わからないのです。困惑している。あなた方が言う『ソロイ』という人が、私ではないような気ばかりして……つ。

○ソロイ、頭痛で頭を抑える。

【ヨハン】「とと、ソロイ様、あまり考えすぎないで。今は、ゆっくり現状を受けいれることです。急ぎすぎない方がいい」
【ソロイ】「ありがとうございます。……先生」
【ヨハン】「せっ……」
【ソロイ】「? ……何か違いましたか。先ほど皆さんがそう呼んでいらっしゃったので」
【ヨハン】「い、いえ、間違ってないです。はい。間違ってないんですけど……はは、ソロイ様に敬語を使われるのはくすぐったいですね」
【プルート】「……っ。(プルート、突然立ち上がって)」
【マリン】「プルート様……?」
【プルート】「わ、私は……へ、部屋に戻ります。ヨハン、け、経過が進展したら、ほ、報告に来なさい。私は、政務にもどります。……では!」

○プルート、足音荒く部屋を出て行く。

【マリン】「……プルート様……」
【シリウス】「確かに、プルート殿には耐え難いだろうね。今の事態は。自他共に認める、一番の部下なんだし」
【ユニシス】「……そうなんだ。……じゃあ、辛いね」
【ヨハン】「……とりあえず、今は安静にしているのが一番のようです。薬はこちらの盆の載っているものを食後にひと包みづつ飲んで下さいね」
【マリン】「えっ、先生もう帰っちゃうんですか?」
【シリウス】「まだ何も進展してないじゃないか!」
【ヨハン】「体については異常ありませんから」
【シリウス】「それは無責任だろう、ヨハン殿」
【ヨハン】「シリウス様、私は何も治さないと言っているわけではありません。今日のところはこれでおしまいにするだけですよ」
【シリウス】「だ、だが……」
【ヨハン】「毎日ここには来ますし。それに、これ以上大勢でお話を続けては、ソロイ様はちっとも安静にできないでしょう」
【シリウス】「……う……」
【ソロイ】「私は……悪いのですか?」
【ヨハン】「いいえ、健康です。何も心配はいりません。ただ、少し……お疲れになっていて忘れたものが多いだけです。しばらくすれば、すべて思い出しますよ」
【ソロイ】「……わかりました」
【ヨハン】「では、ユニシス。アクアさん。帰りましょう」
【ユニシス】「はい」
【アクア】「……はーい……」
【シリウス】「私はもう少し彼を見ているよ。……なんだかこのまま寝ると、うなされそうだから」
【マリン】「わ、私も。その、お食事の世話とかなら、たぶんできるし」
【ヨハン】「おまかせします。……葵さん」
【葵】「な、なんだ?」
【ヨハン】「そろそろ夜も遅い。送りましょう。ユニとアクアさんはふたりで帰れますよね」
【ユニシス】「えっ、なんで先生がそんなこと!」
【ヨハン】「こんな時間に女性をひとりで帰らせるわけにはいかないでしょう。治安もよくないし」
【ユニシス】「騎士院の馬鹿を呼べばいいじゃないですか!」
【葵】「よ、よいよい。私はひとりで帰れる。気遣いは無用だ」
【ヨハン】「葵さんこそ、無用ですよ。さ、行きます」
【葵】「わっ、押すな押すな、行く、わかった!」
【ユニシス】「……じゃあ帰ります。ソロイ様。早く、元気になるといいですね」
【アクア】「……おだいじに」
【ソロイ】「……ありがとう」

○ドアをしめる音、四人の足音が遠ざかっていく。

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