○暗転。
クルクル、クルクル。回る運命。
それをただ、見つめたあの頃。
【ヨハン】「そんなに欲しいなら、買ってあげましょうか?」
【ユニシス】「え?」
○港。セピア。
初めてアロランディアに下りた時、バザーで目についたそれ。
別にねだったつもりはなかったんたけど。
【ヨハン】「風車って言うんですよ。見たこと、ないですか?」
【ユニシス】「あ、はい……ないです。でも、いいです、いらないです。お金、もったいないし」
【ヨハン】「遠慮しなくていいんですよ。風車は風の原理を知るのには良い教材ですしね。それに、あなたがおもちゃに反応するのは珍しいですから」
【ユニシス】「……先生」
【ヨハン】「はい、どの色がいいですか?」
【ユニシス】「金色。金色のがいいです」
【ヨハン】「わかりました。じゃあふたつ下さい」
【ユニシス】「え!?」
【ヨハン】「私も、久しぶりに回してみたくなったんですよ。ふふ」
○暗転。
荷物をガラガラ引きずりながら、俺たちふたりは風車を回し、歩いた。
宿がなかなか決まらなくて、入国審査もなかなか通らなくて、右往左往しながら港を巡る。
いつもだったら、ちょっとゲンナリしてたはずのその一日。
なのに俺はちっとも、退屈だとは思わなかった。
きらきらと光を反射して、手の中で回る風車をずっと、見ていたから。
思えばあれがすべての始まり。終わりへの。
俺が子どもでいられる最後の日への、運命の輪……。
○港。三人オフ。
【アクア】「ユニシスーー、こっちこっち!」
【マリン】「馬車、もう来てますよーー!」
【葵】「はよう、走ってこーい」
【ユニシス】「うわあ、待てって! 荷物、結構重いんだよ!」
魔法院を出てから三年の月日が経った。
俺はプルート様の計らいで、今はアロランディア本島から離れた小さな島に住んでいる。外に出れば果てまで見渡せる小さな村。人は十人いるかいないか。
元々は星読み様一族の使用人のひとりが、ご褒美でもらったところなんだって。
マリンの村より小さいんじゃないかな。
――まるで流刑だ、なんて思う奴もいるかもしれないけど、それは誤解だ。
俺はこの島が大好きになった。
島の毎日はとても忙しくて、ひとりひとりが責任を持って仕事をしないとみんなに迷惑がかかる。
ひとりひとりの小さな特技がみんなを救う。
俺の拙い魔法の力を、みんなはとても喜んでくれた。
――その度に思う。
先生が目指した世界はきっと、こんな感じなんだろうって。
そして、今年。
俺は戻って来た。……アロランディアに。
○一枚絵 馬車に乗るユニシス(背景使い回し)。
【マリン】「よかった、間に合いましたね! ゲートパス取り消されるところでした!」
【ユニシス】「うあ〜、汗かいた! しっかし、人多くなったな〜。こないだ内緒で来た時より、もっと増えてねえ?」
【葵】「入港が全面的に解禁されて、三年だからの。船乗りたちも増えたが、旅行客もずいぶん増えた」
【アクア】「おかげで神殿はおおいそがしよ……。ふう……。女の子には土日祝日は休ませてほしいわ……」
【ユニシス】「はは、しょーがねーよ。プルート様が星読様じゃなくなっちまったんだから、多少の混乱は引き受けないとな。今まで押しつけてきたんだから」
【アクア】「う、うん……」
【マリン】「は、はい。……そーですね」
【葵】「……ふむ、良い面構えになったのう。ユニシス」
【ユニシス】「ん? 今さら何言ってんの。俺、もうすぐ十八歳だぜ。いつまでも子どもじゃないって。それより、今日の事だけど」
【マリン】「あ、そうでした! 無理言って来てもらったんだから、ちゃんと説明しないといけないですよね。手紙の添付した資料は読んで頂けました?」
【ユニシス】「ああ、読んだよ。でも、イマイチ、要領を得ないトコがあんだよな」
マリンたちのいる神殿から依頼の手紙が来たのは一ヶ月前。
三年ぶりにする、大がかりな降誕祭で、ツリーの飾り付けを手伝って欲しいとの依頼。
そんくらい今いる騎士院と魔法院の奴らでできるんじゃないの、と返事を書いたら便せん十枚で反論が来た。
しかも肝心の中身はなし。申し訳程度に付いてた説明書も意味不明で。
『こりゃ直接話さないとどうにもなんないや』と、俺は島に上陸するハメになったというわけだ。
でも思うに、外交担当にマリンってのは、明らかに配置ミスだと思うんだよな。
確かに人好きはする奴だけど、うっかりミスと余計な寄り道が多すぎる。
今聞いている説明だって、アクアと葵のツッコミに翻弄されて、全く俺に伝わってこない。
(……はあ、どっちにしたって、こっちで『察して』やるしかねーのか)
手紙だろうが、直接だろうが印象が一緒。
変わらないってのは、ある意味スゴイけどさ。はあ。
【ユニシス】「結局さ、魔法院の人手が足んないって話なワケ? 今年は復興記念で大がかりだから、観光客も多い。で、今の魔法院じゃ、お前たちの考える『ステキツリー』は作れる余裕がねーと」
【マリン】「は、はい! 要するにそういうことなんです!」
【葵】「おお、わかってくれたか! 良かった良かった」
【アクア】「ナイス、簡潔なセツメイ」
【マリン】「はいっ、ありがとうございます!」
(どこがだよ)
思わず心でツッコムあたり、俺も大人になったよな。うん。
【葵】「そういうわけで、これが私たちの考える『ステキツリー』だ。豪華に美しく頼むぞ」
【ユニシス】「ほーい。で、締め切りいつ?」
【アクア】「きょう」
【マリン】「今日なんです」
【葵】「今年は一週間連続開催なのじゃ」
【ユニシス】「……はあ?」
ずるり、と窓枠から肘が落ちる。
(……こいつら、ネジが五本ほど取れてやがる)
けれど、馬車は容赦なく進んで、湖近く。
仕事場はもう、目の前。
○暗転。人々のざわめき。湖近く。
【アクア】「それじゃ、そういうコトで……」
【マリン】「よろしくお願いしますねー!」
【葵】「期待しておるぞーー! ではさらば!」
○三人消える。
【ユニシス】「ばかやろーー! 後で絶対追加料金もらうからなーー! おぼえてろーーー!」
軽やかな笑い声を立てて、少女たちはまた馬車に戻っていく。
辺りにはテントを建てている数人の人や、屋台の材料らしいものが入った箱をうんしょと運ぶ人、気の早い観光客などがそれぞれ騒がしく動いている。
それらは一様に明るく、生き生きとしている。
(はあ、久しぶりに都会に来ると、やっぱちょっとビックリするな)
でも、それよりずっと驚くのは魔法が思った以上に浸透している事実。
たとえば港から入国管理局に行った時、今までなら書類を書いて、手形を捺印して、長い審査をして、荷物チェックをして……と一日がかりだった。
けれど今日はタラップ自体に魔法がかけてあって、危険物を持っていた場合にのみ担当者が飛んでくる仕組みになっていた。
手形にしても今までみたいな紙じゃなくて、利き手に特殊インクで魔法陣を書く方式。
見た感じ、ロックが何重にもかかってる。並の魔導師じゃ解けないだろう。
――ついでにトレース機能もついてる。ま、悪いことしなきゃいいんだけどね。
ソロイ様の指示かな、これは。
そして、馬車のゲートパス。利用者が多くなったから、ああいう時間制限つきのシステムを作ったんだろうけど(決められた時間内に乗らないと、次のパスに権利が移される)、かなり頭痛い作りだよな。
俺に作れって言われても、ちょっと辛いかも。
――でも、それは今の魔法院がこの国に溶け込んで機能してるってことだ。
先生が残した色々な遺産。
それはあの嵐でめちゃくちゃになったアロランディアだからこそ、必要なものになっている。
(先生は悔しいとか思わないのかな)
――先生は俺が国を出た後、忽然とアロランディアから姿を消したらしい。
誰にも何も言わず。
――復興のための提言書、そのための材料、数式、山盛りの有益な資料。
恐らく、あの人が一生の全てを捧げて解き明かした世界の秘密すべてを置いて。
――それを使って、沢山の魔導師がもてはやされ、地位を確立している現状を、俺はちょっと切なく見つめている。
先生の欲しいものはきっとこの風景だったのに、どうしてここにいられないんだろう。
【アーク】「おー、ユニシスじゃん。久しぶり」
【ユニシス】「え……? あれ、アークかよ。……うわ、ヤな感じ。俺よりまだ、背が高い」
【アーク】「お前な、俺だってまだ成長期なんだから伸びるよ」
【リュート】「ユニシス、ひさしぶり。すごいね、僕は負けてるよ。ちょっとショックだなあ」
【ユニシス】「あれ。あんたも帰って来てたの。リュート」
【リュート】「うん、シリウス様の露払いでね」
【ユニシス】「え、アイツも来るの」
――シリウス様、別に今はどうとも思わないけど、生理的にニガテ。
相変わらず人形付きなのかな。
――あの人が頻繁に来てるのが、先生がいなくなった原因か、もしかして?
【リュート】「大丈夫、シリウス様は最終日だよ。あれで結構忙しい人だから。ツリー作りを邪魔したりはしないと思う」
【ユニシス】「あれ、もう知ってんの。俺がツリーを作る事」
【アーク】「お前こそ知らないの? 三日前から大宣伝してるぞ? ほい、これチラシ」
【ユニシス】「……なにそれ」
つかみかかってその紙切れを見る。
そこには一見してアクアのものとわかる汚い字。(全く直らないんだ、これが)
『せいきのだいまどうしがつくるステキツリー! みにこないとオシオキよ☆』
【ユニシス】「……」
【リュート】「世紀の大魔導師だって言うから、ヨハン先生がいるのかな〜、って思って来たんだけどね……あはは……」
【アーク】「ま、頑張れ」
○肩を叩く音。
【ユニシス】「ぐあーーー! 今日来て、夜まで数時間で、そんなスゲーモンが作れるかー!」
○紙を破く音。
【リュート】「あ、あはは……が、頑張ってね。お、応援してるから」
【ユニシス】「だったら、手伝え! お前、少しは魔法かじってるだろ! ダリスにいるんだから!」
【アーク】「ダメ。もう俺たち騎士院が先約入れてるから。こっちも人手足りなくてさ」
【ユニシス】「アーク! そっちは腐っても百人はいるだろ!? 俺はひとりだぞーーー!」
【アーク】「何言ってんだ。……信じてるんだよ、お前を。お前ならやれる! 信頼してる! なんてったって、大魔導師だもんな!」
【ユニシス】「なんだその、百八十度昔と違う意見はーーー!」
【アーク】「魔法の素晴らしさを理解しましたので、過去の暴言は訂正、削除させて頂く存じます。魔導師殿。それでは、お仕事頑張って。失礼!」
【ユニシス】「アーークーー!」
【リュート】「あはは、相変わらず慇懃無礼……。まあ、僕も期待はしてるから。……それじゃ!」
○ふたり消える。
【ユニシス】「がーーー! どいつもこいつも、勝手いいやがってーー! 魔法は奇跡じゃねーんだぞーー、コラーー!」
――辺りの人間の視線が一気に集まる。
驚き、怯え、興味、好奇。それを俺はじろりと見返す。
そうするとあっという間に「見なかったですよ、ボク」とあさって視線になった。
(ふん、見たけりゃ見ろよ。俺はなーんも、やましくないぜ)
男になると決めた体、人生の使命、やりたい事、やらなくちゃならない事、目指す光。
――それを持ってる。
三年前の、自信がなくて、嫌われるのが怖いから嫌って、好かれたいから卑屈になってる俺じゃない。
【ユニシス】「……ふん、やればいいんだろ、やれば!」
日が落ちるまで、今の季節ならあと四時間。
――ヨハン先生なら、きっとできる。
○一枚絵 ツリーを作るユニシス。一枚絵は光変化色々します。
【ユニシス】「えーと、まずはベース作んないと……。……アロランディアは風が強いからな。揺れ耐性を強化するにはっと……」
○魔法陣光る。
【ユニシス】「……スピード勝負でも基礎はしっかり。先生の最初の授業で言われたことだ」
○暗転。
【町娘A】「なにやってるの〜? それ、売り物?
【町娘B】「知ってるよこれ、まほーって言うんでしょう。
ねえねえ、なんかやってみせてよー。
【ユニシス】「ごめんな、今ちょっと忙しいんだ。終わってからなら、聞いてやるから」
○一枚絵夕方。
【ユニシス】「……なんか、雲が怪しいな。雨が降るかもしれない。となると、あんま火力の力に頼るのも……」
【魔導師A】「あれ、もしかしてお前、ユニシス? うわ。戻って来られたのかよ!
【魔導師B】「なあなあ、覚えてるか? 俺だよ、俺俺!
【ユニシス】「ごめん、悪いけど今、ちょっと大事なトコだから。後でな」
○暗転。
【ユニシス】「……決めた、嵐が来ても逆手にとって風でいく。……となると、核はどーすっか……」
○一枚絵夜。
【ユニシス】「……さて、テスト。動いてくれよ。神様、よろしく!」
○魔法陣光る。すぐ消える。
【ユニシス】「あれ……ダメ? なんで? どこがいけなかった? おかしいな……」
【騎士A】「おーい、このあたりって聞いたよな?
【騎士B】「ああ、いたよ、いた。あの金髪がそうじゃないのかな。おい、そこの魔導師。
【ユニシス】「……」
【騎士A】「おーい、おーい。
【騎士B】「おーいおーい。ダメだこりゃ。聞こえてねーよ。耳、遠いのかな?
【騎士A】「確かアンヘル族だっけ? 入国審査の用紙に補足が書いてある。
【騎士B】「あー、なんか特殊な人たちなんだっけ。集中しすぎて、入り込んじゃってる感じ? 魔導師にはそういう人たち多いよな。んじゃ、ここに置いておくかー。
○モノを置く音。
【騎士A】「一応、うちは弁当全支給だから、食ってよね。……聞こえてないだろーけど。
【騎士B】「神殿の三人のお偉いさんたち、異様にメシにこだわりあるよな。
【騎士A】「言えてる、はは。そんじゃ、見回りだな。
【騎士B】「へいへい、忙しいな!
○暗転。
【ユニシス】「……もぐもぐ……。……あー、そっかここ、間違ってんだ。くそ、すっごいケアレスミス。やんなるな、もう」
○一枚絵復帰。
【ユニシス】「んじゃ、もう一回! 『ことりはふたり、ふたりはひとつ、溶けて止まれ、たゆたう力。……七つの日没が過ぎるまで!』
○画面光る。ちょっとタメて、スクロールのツリー。ざわめき。
【ユニシス】「……よっしゃ!」
【町娘A】「わー、きれーい!
【町娘B】「すごーい! おっきーーー! 観光に来てよかったねー!
【町娘A】「うんうん!
【魔導師A】「おーーー、すご! やるなあ! ユニシス! 俺にはまあ、か、勝てないだろうがな!
【魔導師B】「……お前、負け惜しみすぎるだろ。
【騎士A】「ひゃー、これはすごい。盛り上がるぞ! 楽しみだなあ、七日間の降誕祭!
【騎士B】「俺たち、仕事だけどね。
【騎士A】「それを言うなよ……。
【ユニシス】「……うん、悪くない。……間に合ったかな」
夜空に光る、細かな光の粒は魔法で作った雷だ。
今までのようにいちいち玉を削ったり、リボンを巻いたんじゃとても間に合わない。
かといって魔法一本じゃ、持続性は薄れて七日持たない。
だから、ボールの中に小さな雷を閉じこめた。
雷は風の属性に入る。
あれくらい高い場所なら、強く風が吹き続けるから、自動的に力を貯めてくれるはず。
となれば最低限の『着火』で後はおまかせ。
自分の労力も減らせてラッキー。
――まあ、凝ろうと思えばもっと凝れるけど、時間的制約の中ではやった方かな。
【ユニシス】「任務完了ーっと! あーつかれた……!」
(でも、先生だったらもっとうまくやるかな)
魔法を知れば知るほど思う、先人の偉大さ。
あの人にしかできないことを感じる。
――先生、やっぱりあなたはすごい。
○湖。夜。
【町娘A】「おつかれさまー」
【町娘B】「約束約束! なんか作ってー! 魔法でぱーっとキレイなの!」
【ユニシス】「んあ? なんだっけ、お前たち」
【町娘A】「にゃーー! ひどい! お昼に声かけたもん!」
【町娘B】「後でって言ってたから、ちゃんと待ってたんだもん〜! ずーっとずっと、待ってたんだもんーー!」
【ユニシス】「え、そうだったっけか……」
覚えてない。
確かに何度か話しかけられた気もするけど、すごい適当にあしらった気がする。
(うわ、もしかしてまた俺、やっちゃったかな)
三年前、俺は自分の居場所が奪われるのが怖くて怖くて、寄るもの触るもの、ひたすらナイフをつきつけた。
言葉のナイフ。それは時に、体を傷つけるより痛みを伴う。
先生は俺のそんな態度を、悲しく思っていたに違いない。
今の俺からしたって、あの頃は異常だった。
それは、自分に自信がなかったから。確固たるものがなかったから。
自分程度の奴はいくらでも替えがきいて、先生がその気になれば俺の居場所に別の誰かが『弟子』になるなんて、簡単だとわかっていたから。
だからすべてを遠ざけて、ズルをして、見透かされているのも気づかずに……。
もう二度とあんな真似はしない。
――そうできるまでは戻らないと決めたのに。
(まだ時々無意識に、やっちまうんだな。……触られるの、なんだか嫌で)
好意を無遠慮に振り払う、俺の中にまだ居座る誰か。
――三年ずっとそいつと向き合って、ずいぶん穏やかな関係になれたと思ってたんだけど。ダメなのか、まだ。
(俺はまた、無意味に誰かを傷つけるようなことを)
【魔導師A】「ああ、覚えてないよ、この人。えらく集中してたから。気にしないで、許してやりなよ、子どもさん。俺たちが後で何か作ってあげるからさ」
【魔導師B】「ああ、俺たちだって一応魔導師だからな! おう、久しぶりー。ユニシス! げ、元気だったか?」
【ユニシス】「……誰?」
【魔導師B】「がーーーん!」
【魔導師A】「うわはは、やっぱりお前、覚えられてねーよーー! もしくは無視されてるか。自業自得だな!」
【魔導師B】「い、いいんだ、これから償っていくから……。嫌がらせしたのは事実だしな……」
――ふたりの魔導師。ああ、そういえば見たことがあるような気もする。
嫌がらせ……ってのは、どうも思い出せないけど。
そもそも、嫌がらせされる原因はたいてい俺の一言だしな。
たとえば……あ。
【ユニシス】「思い出した。数式一辺倒の、メガネクンじゃん。世の中を動かすのはゼロとイチの概念だから、それから外れるアンヘルは異端だとか言って……」
【魔導師B】「おおおおーー、お、思い出してくれたかーーー!? お、俺は嬉しいよーー!」
【騎士A】「……喜ぶところか、それ……?」
【騎士B】「はーい、そろそろ会場だよーー! お、魔導師さんたち! そろそろツリーから離れてよ! あぶないよ、観光客がすげー来ててさ……」
【騎士A】「あ、金髪魔導師さん、弁当食ったね? 偉い偉い。働くものはたんと食えってのが、議長様のお達しだからな。残されると後が怖い、あはは」
【ユニシス】「あ、そういえば弁当あった。……騎士院って、今はそんなサービスもやってんの?」
昔ならやっていても、魔法院になんて回ってこなかった。
だって、お互いの場所を守らないといけなかったから。
兵糧攻めは基本だよな。
【騎士A】「騎士は『サービス業だ』ってのが、今のお触れでね」
【騎士B】「それに、変わり者はここ三年でずっと慣れちまったよ。観光客にはあんたより変な奴、一杯いるよ。アンヘル族も探せばいるかもね。バイトしたいなら、雇うけど?」
【ユニシス】「……結構、これでも引く手あまたなんだ」
【騎士A】「そいつは残念だ。魔法剣士もカッコイイと思うけどね。実際うちのアークさんはそーだし」
【ユニシス】「考えとくよ!」
(ああ、でも……どうにか許されてるのか?)
あの頃の世界と、今の世界は一緒のもの。
でも、まるで別世界に。
それは何が変わったんだろう。……自分だといいけど。
あの頃の間違いを、二度と繰り返さず、溺れず、前に進み、歩く。
先生の目指したものを追う。
何が先生を間違えさせ、ここを去らせたかに思いを馳せる。
きっと、あなたも今、ここにいたら思うはずだ。
(……先生、やっと始まりましたよ。あなたの目指した未来の形が)
傷ついて、悲しんで、あがいて、それでも世界を愛して、過去に許しを乞うた。
贖罪の日々は終わりです。
(だから、ここに帰ってきて下さい。いつか)
そして、また俺の目の前を歩いて。
【ヨハン】「こんばんは」
【ユニシス】「……」
【マリン】「わ、きれーい! さすが、ユニシスさん! いいお仕事ーー!」
【アクア】「……ぐっじょぶ」
【葵】「うむ、まず不可能と思っておったが、ヨハン殿の言うとおりになったの」
【ヨハン】「まあ、あれくらいは私の弟子ならやるでしょう。というか、やって頂けないと私の対面が丸つぶれですから、本当に安心しましたよ。
ケアレスミスをしていた時はハラハラしました」
【ユニシス】「……って、先生! なんでここにいるの!? なんで知ってるの!? ミスったことも!?」
【ヨハン】「はあ、ずっと後ろで見ていたんで。あ、魔法で姿は消していましたけど。短時間しか持たないんですけど、結構すごいでしょう」
【ユニシス】「……っ……っ!」
【マリン】「ゆ、ユニシスさん? なんか、白目むいてる……?」
【葵】「……お、おい、しっかりしろ!? 私の手が見えておるか?」
【アクア】「……ちょっと、驚かせすぎたかしら? でも、ふくせんは張っておいたのに。……あんなバカみたいなふくざつな魔法システム、先生以外に作れるとおもう……?」
【ユニシス】「な、な、な……それじゃあ……さ、最初から……!」
【マリン】「はーい、ドッキリでしたーー! もー、来ないって最初の手紙で言われた時はどーしよーと思いましたよー!」
【葵】「まったくじゃ。かといってヨハン殿がいる事をばらしてはいかんし」
【アクア】「……それにね、わかんなかったからね。……ユニシスがまだ、先生のこと、好きか」
【ユニシス】「そんなの、変わるわけないだろ!」
【ヨハン】「……ユニ……」
【ユニシス】「そんなの、絶対に変わるわけないよ……。先生……」
【ヨハン】「……ありがとう」
【ユニシス】「はい……」
【ヨハン】「……明日、また風車を買いにいきましょうか。……ツリーにもっと飾ったら、キレイですよ」
【ユニシス】「……そう……ですね」
○スクロールするツリー。
きらきらと輝くツリーのてっぺん。
遠くからだったら星に見える。
けど、そこに回るのは――風車。あの時の金の光を思い出して。
○暗転。
【マリン】「よーし、それじゃ降誕祭スペシャルを開催しますよー!」
【葵】「うむ、皆のもの、用意はいいか」
【アクア】「おーーー!」
【マリン】「おーー!」
【ヨハン】「お、おう?」
【ユニシス】「あははっ、おーーー!