○暗転。
○一枚絵 四つ葉のクローバー。
四つ葉を見ると思い出す。
俺ってずいぶん酷いことをしてたんだなって。
確か、何かの記念日だ。
その時つきあっていた……確かパン屋のロゼに、四つ葉のクローバーをもらったんだ。「あなたに幸運を。アーク」。
お互い同い年。もちろん、星の娘探索のお触れも出ていない頃。
幸運を呼ぶというそれを、院に帰るなり俺はリュートに渡した。
そうしたら、翌日ビンタを食らって別れた。
何考えてるのよ、となじられた。
その時、俺はどうしてロゼが怒ったのかわからなかった。
モノはいつか枯れて無くなる。
無くならないものがあるとしたら、それはあの一言だと思っていたのに。「俺は、あの一言が、クローバーより大切だったのに」。
けれど、今ならわかる。
どうして彼女が怒ったか。
翌日、リュートが悲しそうに、そのクローバーを俺に返したか。
――「アーク。これはもらえないよ。……謝っておいで」
あいつに幸運を分けてあげたかった。嬉しさを分かち合って欲しかった。
本当にこの四つ葉に幸運が宿っているのなら、俺じゃなくて、あいつにと思った。
神様はいつも不公平だから、せめて俺だけはあいつをひいきしようと……決めていたから。でも、それが間違いで。
リュートは何度も、俺にサインを送ってた。
それを俺はたぶんわかってた。心の底では、きっと気づいていたのだと思う。
けど、無視した。俺にとって都合の悪いことだったから。
だから、あの嵐は、必然。
(予定よりちょっと早く来ただけの)
——むしろ、神様って奴に感謝すべきなのかもな。
あの嵐の中、あいつが足を踏ん張って、そこに一緒にいてくれたことを。
真っ暗な夜空、握り拳で、星をずっと守ってた。「まだ、ここにある」。
光る希望はきっと、まだ、って。
○騎士院外。
【町娘A】「きゃーー! アークさーーん! すてきー!」
【町娘B】「こっち向いてくださーい!」
【町娘C】「葵さまーー! あっ、目が合った……! 結婚してー!
【アーク】「……」
○一枚絵 正装したアーク、街を歩く。三人娘と一緒。
【アーク】「おい……いいのか、アレ……明らかに誤解してるぞ。お前のこと」
【葵】「放っておけ。別に男に見られて困ることは何もない。まあ、おぬしが女に見られたら問題であろうが」
【アーク】「あり得るか、そんなこと! ……でも、そろそろいいだろ〜? 帰ろうぜ。この服、マジ首きつくって……」
【マリン】「だめだめだめ、だめですよ〜! せっかく綺麗にしたんですから、もうちょっと頑張りましょうよ!」
【アクア】「そうそう……お出かけお出かけ……らんらんらん♪ たのしいな〜……うふふ」
【葵】「うむ、ほれ! 顔もいつもの仏頂面になっておる! もっと愛嬌を振りまかぬか! おぬしの昇格祝いにわざわざ出てきてくれているのだ。さーびすじゃぞ!」
【アーク】「じゃあ、もう昇格取り消しでいいからさ……」
【マリン】「だめです! こんなおもしろいのに、やめるなんて!」
【葵】「男に二言はない、であろ。何より、私たちがやめる気がない」
【アクア】「お仕事、おしつける人が減るのは大問題だし……ね。却下、きゃっか〜」
【アーク】「て、てめえら……本音マンタンだな……」
街を練り歩いて、もう一刻半。
普段なら別にどうってことない距離だけど、すでに俺の心身はボロボロだ。
理由は明白。このクソ恥ずかしいパレード(もどき)をやってるからだ。
いや、確かに出世はしたいと言ったよ。
そうしなきゃ、リュートに言われたことはできないから。
だから勉強だってしたし、気の乗らない会議にも出たし、出向だってしたし、魔法だって使えるようにした。
こいつら『元候補』の七光りだなんて言われねーように、必死になって努力した。
——努力なんて、本当に今でもやってらんねーと思うけど。
やらなきゃ行きたい場所にたどり着けないなら、するしかねーよ。
そして、今の場所を手に入れた。
『白煙の騎士』。……親父が退役した時の地位って言えばわかりやすいか。
とにかく、年に相応しくない権力を手に入れたってわけだ。
けど、こんなバカらしい儀式が残っていたとは知らなくて。
——白煙の騎士が最後に出たのは十五年くらい前らしいから、知るはずねーよな。はは。
だって、俺、その頃これっぽっちも騎士なんて興味なかったぜ。
(……これがあるって知ってたら、ぜってーしきたり変えてから昇格試験受けたのに……)
でも、もはや後の祭り。
三人娘はノリノリで俺の晴れ舞台を演出し、頼みもしないのに俺と一緒に歩いている。
アロランディアの議会の長、副長、書記がそろい踏み……。
バカだろう、お前ら。テロとかあったらどーすんだ。
騎士院の奴ら、悲鳴あげながら街のあちこちで俺たちを追いかけてるぞ。
知ってるか? ……まあ、知ってたって、やめないだろうけど。
そりゃ箔ももつく。俺を応援したいってのも本当だろう。
騎士院を盛り上げようって意図もわかるよ。けど。
【マリン】「みなさーん! アークさんは生まれ変わりましたー! がっつり、街のために、活躍してくれますよー! 大きなことから小さなことまで! おまかせください、正義の味方!」
【町人】「ほんとーかー!? じゃあ、四丁目のサムに貸した銅貨を取り返してくれー!
【アクア】「むかしのウサをはらすならイマー! ムリナンダイは騎士院、白煙の騎士アークまでー!」
【町人】「うおお、キサマー! 俺の恋人をかえせーー!」
【女の子】「ちょっと! 別に別れてないでしょ! あの人、かっこいいって言っただけでコレなんだから!」
【葵】「世のため人のため尽くすと誓いを立てた! 男に二言はないからのー!」
【女の子】「きゃー、じゃあ黒魔法で好きって言わせたら、結婚してくれるー!?」
【葵】「うむ、チャレンジしてみるがよい! 人生、挑戦じゃ!」
(こいつら、明らかに、おもしろがってるだけだ、絶対!)
【アーク】「こらこらこら! 葵! 変な約束すんじゃねー! 本気にするだろうが!」
【マリン】「大丈夫ですよ〜、アークさんがひっかからなければいいんですから!」
【アクア】「……まあ、ひっかかったら男らしく責任を取るってことで……」
【アーク】「取るか、あほーー!」
責任なんて取ったら、どっかで誰かに泣かれちまうだろーが!
いや、泣いてくれねーかもしれないけど。
——それはそれで、すごーく凹むんだけどな、俺。
——普通、女の方が気にしないか? 違ったか?
【マリン】「さっ、アークさん! もう一周くらい頑張りましょう♪」
【アクア】「……人も一杯ふえてきたし……おまつりらしくなってきたわ……」
【葵】「今まで不義理ばかりしてきたのだから、今日くらいはもう少し頑張れ。なあ?」
【アーク】「もう三回くらい回っただろ! 時間だって過ぎてるし! お前らだって仕事はどーした!」
【マリン】「大丈夫です、有給使いますから♪」
【アクア】「おなじくー」
【葵】「さらにおなじくーー、じゃ」
【アーク】「……仕事しろよ、頼むから……」
議会制度が始まって、まだ数年。
こいつらはそのメインメンバーなわけだから、俺よりずーっと働かなくちゃいけないはずだ。
なのに、ちっとも変わらない。
マリンは相変わらずノホホンとしてるし、アクアは空気を読まないし、葵にいたっては未だにベッドで眠れないと抜かす。
(でも、だから俺は頑張れたんだけど)
リュートのいない二年。あいつのいない生活は、ずいぶん違った。
——そして思い知った。どれだけ俺が、あいつに助けられて生きてきたかってこと。
頼っていたかってこと。
ちっともひとりでなんて生きてなかったこと。
——あいつをどれだけ、我慢させていたかってことも。
【アーク】「あ、痛」
○大通り。
【葵】「おい、アーク?」
【アクア】「……どうかした?」
【マリン】「アークさん?」
【アーク】「……悪い、平気。なんか、立ちくらみ」
——ピリ、とした痛み。……人に酔う程ヤワじゃないはずなんだけど。
(さすがに、顔がつったかな?)
それは一番あり得る話だ。
なんてったって、こんなに長い間笑顔でいたのなんて、人生で一度も……
○リュート一瞬表示。
【アーク】「……!」
○リュート消える。
○一枚絵 アークの顔険しく
【葵】「……大丈夫か? すまぬな、体調が悪くなる程だとは思わんかった。院も近い、この辺で切り上げ……」
【アーク】「葵、俺、ちょっと抜けるわ。……悪いな!」
【アクア】「アーク? ちょっと……」
【マリン】「どこ行くんですかーーー!?」
○足音とともに暗転。
○走って場所移動してる感じ 。広場→路地裏→港→川みたいな?
【アーク】「……はあはあ……あれ、やっぱ……人違いかな。……あったりまえか」
まだ、会えるはずがないよな。
まだ、二年目になったばっかだもんな。
どれくらい経てば大丈夫なのかな。
なあ、リュート。
——どれくらい頑張ったら、俺はもう一度お前に認めてもらえるんだろう。
【アーク】「はあ……やれやれ……。つっかれたー……。やっぱ、まだダメなのか。俺って。よわー」
○空。
草地に寝ころぶ。白いマントは汚れるだろうけど、気にしないことにした。
どーせ、次に着るのは相当先。
その頃には体型も変わって、作り直しになるだろうから。
背はまだ伸びてる。ソロイ様くらいには伸びるといいんだけど。
【アーク】「……あ、シロツメクサだ」
寝ころぶ端にたくさん群生している。
ほとんどはは三つ葉。当たり前だけど、見つからないから『幸運の四つ葉』なんだよな。
【アーク】「……五つ葉とかあったら、ちょーラッキーなんかねえ」
葉影をそろりと分けてみた。
小さな虫がうごめいている。働き者だな、お前たち。
俺はもうちょっと、サボりながら生きたいんだけど。
(……運試しでもしてみるか?)
ふと、そんなことを思った。
ちっとも音沙汰のないあいつ。
手紙くらい、一言くらいよこせばいいのに。
——やっぱり、友達じゃなくなってんのかな。
もう二度と会いたくないってくらい。
昔、あいつに四つ葉をあげた。誰でも知っている幸運の印。
あの頃、俺はあいつに幸運を分けて『あげた』つもりでいた。
それが態度ににじみ出ていたと思う。
可哀想だから。
恵まれてないから。
頑張ってるから、ご褒美だって。
なんて失礼で、勝手な奴なんだろう。
恵んでもらう幸運なんて、誰だって欲しくないはずなのに。
頭が……キリキリする。
忙しい時には、忘れている痛み。
ふとしたことで走るそれ。
原因はわかってるのに、治療法が試せないってのは辛いな。
でも、その痛みを知ったから、俺は今の俺になれたのかもしれない。
——別れがなかったら、ここまで来られなかったのかもしれない。
でも……。
(戻りたいと、願ってる)
そろり、と草むらをかきわけた。
緑の似たような草ばかり。
(……諦めたくないって思ってる)
そろり。
(……お前はどうかな)
ゆっくり。
(神様、教えてくれよ、どうか)
願い。
(……答えをくれたら、来年の新年祭は真面目に出るから)
【アーク】「お?」
ふと手に触れたその先には。
【アーク】「四つ葉だ。……うわお。すげーー! わはは、やっぱ俺って天才ーーっ!」
【アーク】「って、そういうこと言うのがいけねーのか。……むむ、ま、まあ、誰もいねーし、いいだろう、うん」
○足音。
【葵】「アーク!」
【アクア】「あ……いた……」
【マリン】「だいじょーぶですかーー!?」
【アーク】「おー、おまえら! 見ろよこれ! 四つ葉四つ葉ーー!」
【葵】「……な、なんだ? ぜえ……はあ……じょ、上機嫌じゃの……?」
【アクア】「……げんき……ね?」
【マリン】「……あの、具合は……?」
【アーク】「え? ああ、それか。もう全然平気。吹っ飛んじまったよ」
【葵】「な、なんじゃ……精神的なものだったのか」
【アクア】「まあ……ほんとうに具合が悪くないのだったら……よかったけど」
【アーク】「なんだ、お前ら。そんなに俺のこと心配だったわけ?」
【マリン】「あ、当たり前じゃないですか! ……だって、アークさんが最近具合悪いの、知ってたし……」
【アーク】「え?」
【葵】「仕方ないこととは言え、無理を強要しているのは私たちだからな。おぬしが倒れたら、それは私たちのせいだ」
【アクア】「……ほんとうに、大丈夫? どこも痛くない……?」
【アーク】「……ばーか、俺は男だぞ。あれくらいの仕事量でメゲるかよ。それにさ、今は俺は、めいっぱい頑張らなくちゃいけないんだよ。
今までサボってた分、な」
【マリン】「アークさん……」
【アーク】「そんな顔すんなって。……立派になんねーと、ダメなんだよ。まだ満足してねーぜ。俺は。そうでない、恥ずかしいからな。……あいつが、帰ってきた時に」
【葵】「アーク……」
【アクア】「……そう……ね」
【アーク】「おう」
【葵】「うむ、頼もしくなったのう、アーク!」
【アクア】「ステキ。惚れ直したわ……」
【マリン】「かっこいいです! アークさんならできますよ!」
【アーク】「な、なんだよお前ら。いきなりそんな褒めそやして。何もおごらねーし、出ねーぞ」
【マリン】「い、いえっ! 別にそんなの期待してないです!」
【葵】「そうそう……正直な感想を述べたまでだ」
【アクア】「たいしょー、殿、おうじさま〜」
【アーク】「……あ? ……なんだよ、もしかして嫌がらせなのか? 抜け出したパレードの続きはやるって。あと一周くらいはつきあってやるよ」
【マリン】「あ、いいんです、いいんです、それは」
【アーク】「あ? だってお前、そうしないと終わらないし……」
【葵】「あいや、そこまで。い、いいのだ。おぬしの体の方が心配じゃてな」
【アーク】「だから、どこも悪くねーーって! 機嫌だって良くなったよ」
【アクア】「いいのよ……そんな無理しなくても……」
わたしたち、アークのためになることだったら、どんなことでも……」
【アーク】「……」
【マリン】「……」
【葵】「……」
【アクア】「……」
【アーク】「お前ら、なんか隠してるな?」
【マリン】「かかかかか、隠してなんていませんよ!? ななななな、何言ってるんですか、アークさんってば!」
【葵】「……ああ」
【アクア】「……マリンに隠しごとなんて……そうよね……まず無理だったわ……」
【アーク】「やっぱり! 何か後ろめたいことがあるんだなーー!? おいこら、吐け! 今すぐ吐け! マリン! 一体何をやらかしたーー!」
【マリン】「きゃーーーっ! あーん、どうして私を集中攻撃ーー!?」
【葵】「勝つには相手の弱点を突け。基本じゃな」
【アーク】「葵! お前も涼しい顔してんじゃねー! ……説明しろ」
【葵】「う……」
【アクア】「うーん……まあ、いつまでも隠しておけることじゃないし……ねえ」
【葵】「そうさのう……。ここは正直になっておくか。そうしないと、マリン殿が昇天してしまう」
【マリン】「はう〜、ガクガクされて目がまわります〜……!」
【アーク】「ったく、はじめからそうすりゃいいんだよ。俺とお前らの仲だろ。本気でそうは怒りはしねーって」
【アクア】「ほんと〜?」
【アーク】「なんでめいっぱい疑うんだよ! 俺は変わったって言ってたのは、お前らだろ?」
【葵】「確かにそうじゃが……本当に、本当に怒らんか?」
【アーク】「しつこいな。怒らないって言ってるだろ。いいことあったばかりだし、寛容だよ。今の俺は」
【マリン】「……本当ですか〜? だったら……」
【アーク】「ああ、言ってみろって。スピーチかなんかの追加か? 結婚以外だったらなんだってオーケーだぜ」
【マリン】「……あのですねえ……耳貸してくれます?」
【アーク】「あ? いいけど。……意味あんの?」
【マリン】「あります」
【葵】「言いにくいことじゃしな」
【アクア】「……うん、ないしょのことなの……」
三人がぐんにょりとして、きまり悪げに見つめてくる。
なんかいきなり、しおらしくして、女らしくして、気持ち悪いぞ。今さら。
【マリン】「それでは……ちょっとお耳を拝借……。こしょこしょこしょ……」
【アーク】「……はあ?」
【アクア】「だからね……こしょこしょこしょ……」
【アーク】「おいこら、ちょっと待て。……なんだそれ。……なめてんのか、お前らはっ!」
【葵】「……いや、ワザとやったわけではないぞ? ないのだが……」
【アーク】「じゃあ、なんでもう一回なんて話が出てくるんだよーーー!」
【葵】「すまん、長老たちに日程を一日ズラして知らせておった」
【アクア】「つー、ことで儀式は無効っていうか……」
【マリン】「……完了していませんから、階位の昇進が認められなくて〜」
【アーク】「変えろよ、そのしきたり! お前らならできるだろ!」
【葵】「うーん、議会を招集するのは時間がかかるでなあ」
【アクア】「制度の弊害よねー」
【マリン】「もっとスピーディーにできるよう、改善方法を……」
【アーク】「だあーーー! なんだその、お貴族様のしそうな答弁はーー!」
【葵】「……はは、まあアレだ。スマン!」
【アクア】「ごめん」
【マリン】「ごめんなさーーい……!」
【アーク】「……ふざけんなよ、てめーーらーー!」
【マリン】「きゃーー! 怒らないって言ったのにーー!」
【アクア】「うそつき……」
【葵】「逃げろーーー! 皆の者!」
【マリン】「はいーーー!」
【アーク】「てめえら、一回とことん……しばく!」
○青空に足音。
けれど、それでも。
この小さな、幸せな、平和な空の下。
俺は四つ葉を握りしめた。
青く苦みのあるその匂い。
ふとしたことで砕けてしまう、もろい葉っぱのつながりを大事にした。
(なあ、この島って、実はあんがい悪くないよな。リュート)
田舎で嫌だった。しがらみがなきゃ、さっさと出て行きたかった。
海賊になりたかった。
狭い世界から広い世界へ飛び立てば、もっと素晴らしい何かが待っているような気がした。
——お前は今、そういうものに出会っているのかな。
アロランディアを出て、遠い国にいるお前。
俺が行きたかったその場所に、お前はいる。
羨ましくないといったら嘘になる。
(でも、俺はここにいるよ。いつだって)
大切な思い出。大切な人。大切な運命。
それを一生かけて守るために。
(だから、帰って来いよな)
願う。
(……すぐじゃなくても、いいからさ)
——海の向こうの友達に、大いなる幸がありますようにと。
それは本当に、心から。
自分の手で掴んだ、小さな幸運。
それはまさしく自分のために。
(俺が会いたいからさ)
空を眺めた。海を眺めた。……どこまでも続く青の世界。
——つながってる。
きっと遠い場所、お前の上にも同じ青が広がってる。
だったら、きっと、いつか。
(そして、俺たちはまた、いちばんの友達に)
——手の中の神様が少し笑った気がした。