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01 – 五年後

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01 – 五年後

○暗転。

今日は、記念日だ。だから走る。ひたすらに。
一分でも一秒でも早く、僕は君に会いたいから。

【七緒】「よかった、時間には遅れなかったみたいだ」

荒れた息を整えながら、改札前で独りごちた。
電車が渋谷駅に着くやいなや、走ってきてはみたものの、カードのチャージが足りなくて、精算に手間取ってしまった。
まったく、自分が嫌になる。
何で大事な時に限って、僕はこんなミスばっかりするんだ。
今日はどんな些細な失敗も許されない一日なのに。
待ち合わせの時刻はお昼ちょうど。
相手は、五年ぶりに会う家族。世界で今はただひとりの、大切な僕の妹だ。

長谷部八重。今は十五歳になっているはずだ。
中学校は昨日卒業式があったらしい。
それを境に、八重は晴れて自由の身となった。
僕らの事件は世間的にそれなりの注目を受けたらしく、マスコミの人たちは僕の所にもよく押しかけてきた。
もちろん八重はもっとだったろう。
そのせいで八重の症状はあまり改善はせず、あの別れの日から五年の歳月を僕たちに強いたのだった。
もちろん僕もあちこちを転々とする毎日で、高校は結局途中で中退することになった。

けれど、僕はそれで良かったと思っている。
なぜなら、僕が八重を迎えに行くためには、経済的な自立という奴が絶対に必要だったからだ。
指導員の佐々木さんは、結局僕と八重を一度も引き合わせてはくれなかった。
それは、僕が大人じゃなかったからだ。
まず、住む場所。一定の収入。独り立ち出来るだけの社会的信用。
それがない限り、僕は八重を迎えに行ける資格を持たない。
そう佐々木さんは言ったのだ。
けれど、今なら胸を張って堂々と言える。

(もう、何もできない子どもじゃないんだ)

僕は今年成人を迎えた。
会社に勤め、ある程度の収入と、信用と、あの時僕らが失ったものを手に入れている。
だから佐々木さんに伝えたのだ。
彼女と暮らしたい、と。

そして今僕は、ここに立っている。

○渋谷駅前

妹はどんなふうに変わっただろう。
佐々木さんの手紙によると、すっかり明るくなったという。
まったく想像もつかないけれど。
だとしたら、それは良いことだ。
本当に良いことだ。


ハチ公前で

○ハチ公前 カットイン

ハチ公前に移動する。
有名すぎる場所だけに、僕以外にも待ち合わせの人たちがたくさんいる。

(……わからないってことは、ないよなあ)

僕の側を十重二十重に通りすがっていく人々を眺めて、ふと不安になった。
八重はずっと東京を離れていたから、誰でもわかる目立つ建物を目印にするしかなかった。
佐々木さんから地図や路線図も渡されているはずだ。
あの真面目な指導員さんは、そういう所に手を抜く人じゃない。
だからきっとここの街には来ているはずだけど、彼女は果たして僕の顔がわかるだろうか。
離れていたとはいえ、家族なのだ。だからきっと大丈夫だって思ってたけど……。
明るくなったという八重。
記憶の中にあるあの冷たい無機的な瞳と、明るいという言葉のイメージは重ならない。
やみくもにただ『わかる』と確信していたけれど、僕は本当に彼女が見つけられるんだろうか。
今、この世界に生きる彼女を。

【七緒】「……うーん」

きょろきょろと辺りを見回してみるが、それらしい人影は見えない。
年頃が同じ女の子ならいくらでもいる。
だけど、僕はその誰もが同じ顔に見えて、区別がつかない。

○選択肢:八重を探しに行く?

【七緒】「どうしよう……わからないぞ、これ」

携帯電話を取り出してはみるものの、会社で使う番号しかそこに登録されていないことは、僕が一番よく知っている。
八重は携帯電話なんて持っていない。もちろんポケベルだって。

選択肢

A:探しに行く(02-a)

B:ここで待つ(02-b)

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