「悪役令嬢と極道P」新連載のお知らせBlog

ハッピータイム

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○広場。

お日様がちょっとてっぺんから傾いた時間。
広場の中央、噴水近くで僕は水のせせらぎに心を浸し、待っていた。
(……あー、憂鬱)
ため息ひとつがとても重たい。
サラサラとした水の流れが、どうにかそれも流してくれたらいいのに。
これから起こるであろうことを思えば、当然だけど。
マリンさんが他のふたりの女の子に料理を教える。
「食べに来て下さいね」「食べにきてね……」「食べに来いよ!」と三連続で言われたら、僕に断る権利なんてなく。
——でもどうにか、ひとりでの戦いは避けようと、アークを引っ張りこんだはずなのに。

【リュート】「あいつ、逃げたなあ……っ!」

○鐘の音。

遠くで正午を告げる鐘の音が聞こえた。ジ・エンド。
見慣れた街のどこにも、アークの姿はない。
(あ、後で覚えてろよ……)
腕組みをしてベンチの真ん中に陣取った。
どうせ来ないなら、あいつの分まで座ってやる。
——まあ、予想はしてはいたんだけど。
実際僕だって嫌だ。行きたくない。
——僕と誰か、だったらまだしも、女の子三人集まる中に入るのは……。
正直勘弁して欲しい。
でも、彼女たちは大事な星の娘候補で、便宜を図れとソロイ様にも言われている。
——いや、これは言いわけだな。
単に僕は。
(同じ世代の女の子が苦手なだけ)
——それだけの話。

【マリン】「あー、リュートさん! はやーい!」
【アクア】「こんにちは……逃げずによくきたわね……」
【リュート】「あっ……マリンさん。アクアさん。こんにちは。時間通りだね」
【マリン】「はい、お待たせしたらいけないと思って。それに、遅れたらアークさんはすぐ帰っちゃうかなって」
【アクア】「……あら、そういえばアーク、いないわね……」
【リュート】「ああ、あいつはサボリ。来なかったよ」
【マリン】「えーー! そうなんですか。……残念」
【アクア】「残念ね……」

——ふたりの少女の何気ない言葉。
ちくりとする。

(……うーん、気にすることでもないのはわかってるんだけどな……)

【リュート】「まあ、土壇場でいなくなるのはアークの十八番だから。大目に見てやって」
【アクア】「……そうね……そうする。……あとでシバけばいいし。ふふ」
【マリン】「わわ、アクアさん! しばくなんてダメですよ! またお誘いすればいいじゃないですか。ねっ」
【リュート】「え? あ……ああ、そうだね……」

(三人揃ってだと、次があっても絶対来ないと思うけどなあ……)

なんてったって、この三人。
揃いも揃ってくせ者揃いだ。

【リュート】「……って、あれ? 葵さんは?」

三人の中では一番常識的な、黒髪の少女。
騎士院で一緒に暮らしているけど、確か今日は「買い出しにつきあう」と言って先に出て行ったはずだ。

【マリン】「ああ、葵さんは買い出しが遅れてるだけです。一杯買う物があったから、分担したんですよ」
【リュート】「ああ、なるほど。……力入ってるんだね」
【アクア】「ふふ……期待していなさい……。すぺしゃるで、びゅーてぃふるな、ましょーのケーキをおみまいするわ……」
【リュート】「わあ……たのしみだなあ……」

○足音。

【葵】「すまん、遅れた!」
【マリン】「あ、葵さんー! やっと合流できたー!」
【アクア】「……さあ、それじゃ、れっつごー」
【リュート】「はーい……」

きゃらきゃらと、鈴音のようなおしゃべりをしながら、少女たちは僕の前を歩く。
その先に待っているものは、何か。
(……できればそこそこ、人間が食べられるものであって欲しいなあ……)
明日も仕事だし。
——なにより、僕は『お茶』にはちょっとうるさいのだ。

○暗転。
○一枚絵 三人娘とリュートのお茶会。アクアの部屋です。

【マリン】「じゃじゃじゃーん! でっきましたー!」
【アクア】「できたー!」
【葵】「できたのう!」
【リュート】「わあ……意外……見た目はまとも……」
【アクア】「……リュート?」
【リュート】「いえっ、き、期待通り! あ、あはははは」
【アクア】「……よし」
【葵】「はは、そんなに出来が心配だったか。だから、アークの奴は来なかったのだな?」
【リュート】「……ノーコメント」
【マリン】「あはは、顔でわかりますよ。リュートさん。もう、心外ですねえ。私がいるのに、まずいお菓子なんて作らないですよ! ふふっ」
【リュート】「まあ、マリンさん『だけ』なら、そうだろうけど。……よく爆発しなかったね?」
【アクア】「……なによ……どうして、わたしたちを見るのよ」
【葵】「し、心外じゃぞ。いくらなんでも、そう毎日失敗はせん! これでも、だいぶマリン殿に学んだのだ。……まあ、たまに砂糖と塩は間違えるが……」
【アクア】「わたしもほんとうにたまに……パイが緑になったりするけど……」
【リュート】「み、緑!? ……何入れたの?」
【アクア】「草。腰痛に効くっていうから、先生に……」
【リュート】「……へええ……食べてくれた?」
【アクア】「うん。……でも、さすがにやめておけばよかったと思ったわ……」
【リュート】「そうだろうねえ……」
【葵】「そんな時に限って、砂糖を入れてしまうしなあ」
【リュート】「……お気の毒さま」

思わず葵さんを真似て、手を合わせる。
葵さんの国の『お祈り』なんだそうだ。
台所が自由に使えるのは魔法院だけ、ってことで、僕らはアクアさんの部屋に集まってテーブルを囲む。
お喋りしながら並べられていく、色とりどりのお菓子たちはどれもおいしそうだ。
——案外、練習の成果は出ているのかもしれない。
この島に候補として来て、一ヶ月。
最初はやることなすこと、この人たちは騒がしくて、一体どうなってしまうんだろうと、気を揉んだものだけど……。
(これなら少しずつでも、厄介ごとは減っていくかな)
——それは僕にとって安心の材料。波風はできるだけ立てたくない。
なぜって、それは……僕が僕でいられる最低限の砦だから。
少しずつ狂っていく歯車。ふとしたことで僕の中に揺らぐ、あの『感情』。
何かのアクシデントで、すぐに堰を切ってしまいそう。
だから、平和に。……静かに、平和に、僕らしく、生きさせて欲しい。
——彼女たちと関わるのは、少し控えたいのが本音だ。
でも、最初に僕は星を見つけてしまっていて、もう逃れることはできない。
それは神殿が僕に課した使命であり、運命が決めたこと。
神様のお導きって奴なのかもしれない。
(だとしたら、ずいぶん意地悪だ)
テーブルの端に目を落とす。
ひとつ空いた椅子。
——ここにはいない、誰かに、僕はまた嫉妬する。
(別に、ここにいるのは僕じゃなくたって、構わないだろうに)

【マリン】「よしっ、綺麗に並べられましたっ! それじゃ、お茶淹れましょう♪ 良い葉っぱを買ってきたんですよ。リュートさんはレモンですか、ミルクですか?」
【リュート】「あ、僕はストレート。何も入れない方が好きなんだ」
【アクア】「へえ……ミルクのほうがあまくておいしいのに」
【葵】「私はできれば緑茶が良いのだがなあ」
【リュート】「うーん、まあ安い葉っぱなら、そうして飲むけど。おいしいのなら、やっぱりそのまま飲みたいよ」
【葵】「ふむ、そういえばおぬしの部屋には結構茶道具があったのう。好きな方なのか?」
【リュート】「あはは、普通より少しくらいね。お茶道具が部屋にあるのは、別に僕だけじゃないよ」
【リュート】「院の台所で入れると、面倒くさがりなくせに、口だけは肥えてる奴らにたかられて、飲み尽くされちゃうでしょ。それが嫌な奴は、部屋で飲むわけ」
【アクア】「なるほど……賢いわ……」
【葵】「はは、一番たかりそうなのがひとり隣におるしな」
【リュート】「あいつは勝手に部屋に入って飲むから。もう諦めた」
【マリン】「あはは、アークさんらしいですねえ。……あれ? お茶っぱ……」
【アクア】「どうしたの?」
【マリン】「……葵さん〜! 間違えて買ってきてる〜」
【葵】「なぬ!?」
【リュート】「あ……この匂い……」

ふんわりと袋から漂ってきたのは、明らかに紅茶とは異なる香り。
——なつかしい手触り。

【アクア】「コーヒーだ……。……ふーん、コーヒーって元はこういう粉なのね……」
【葵】「すすす、すまん! わ、私にはどれも一緒に見えて……!」
【マリン】「うう、すみません。買い出しの人員配分を間違えましたね。私が買いに行けばよかったです……。どうしよう……私、コーヒーの煎れ方はわからないです〜」
【アクア】「わたしも……」
【葵】「私はもっと知らん! 喫茶店ではもう液体になってできるからのう……」
【リュート】「他に紅茶の買い置き、ないの?」
【アクア】「……きれてるの。……あと、あんまり先生はお茶飲まないし……」
【リュート】「うわ、そうなんだ。うーん、できればお菓子には紅茶だと思うけど……」
【マリン】「……粉だから……お湯に溶かせばいいんでしょうか?」
【アクア】「……くんくん……でも、そうするには粒が大きい気がするわ……」
【葵】「紅茶と同じようにすればいいのではないか? こう、力任せにぎゅーっと絞るとか……」
【マリン】「あっ、それ、いけそうですね。それじゃあ試しに、やってみま……」
【リュート】「わあ! だめだめ! そんなことしたら、おいしくなくなるよ!」
【マリン】「え?」
【アクア】「……リュート……煎れ方、わかるの?」
【リュート】「まあ……人並みには。かな」

ちりり。
また胸の中で揺らぐモノ。
揺らぎ。女の人が煎れるコーヒー。……予言。……別れ。

【マリン】「わー、すごーい! リュートさんって物知りですね!」
【葵】「うむ、頼もしいぞ!」
【アクア】「わーい……それじゃあ、ミルク一杯いれてね」
【葵】「私もじゃ!」
【マリン】「私も!」
【リュート】「はいはい」

○暗転。

——そうして、いつの間にか。
僕はもてなす側の人間に、彼女たちはもてなされる側の人間に。

(ま、予想はついてたけどさ。誘われた時から)

魔法の実験に使うガーゼを拝借。
真っ黒な粉をその中に入れて、コポコポと音を立てるやかんの湯を丁寧に注ぐ。
ゆっくりと。
——白い煙に僕の心の動揺が、混ざって消えてしまうまで。
苦い匂い。
——僕の思い出。

○復帰。

【リュート】「うーん、こんな感じかな」
【マリン】「わー、すごいです! あざやかー!」
【葵】「本当じゃ。喫茶店で見るのと一緒じゃのう」
【アクア】「おいしそう……」
【リュート】「お褒めに預かり、光栄ですよ。お姫様がた。はい、どうぞ。ミルクは好きに入れて」
【マリン】「はーい!」
【アクア】「……はーい。おさとーも……」
【葵】「うむ、頂くぞ!」
【リュート】「はい、じゃ、僕も。頂きまーす」
【マリン】「……ぶっ」
【アクア】「……ひゃっ」
【葵】「……わっ」
【リュート】「ぶっ……ど、どうしたの?」
【マリン】「はうあ……苦い〜」
【アクア】「にがにが……」
【葵】「に、苦い……」
【リュート】「ああ、だからミルク入れてって言ったのに。この豆の種類でブラックは厳しいでしょう」
【マリン】「うう……だって……喫茶店のはもう少し甘いですし〜」
【アクア】「……みるく〜……ごくごく」
【葵】「うう、おぬしはミルクを入れなさそうな気配であったし……。そうは苦くなかろうと思って……ふ、不覚であった」
【リュート】「ああ、だって僕は……結構飲み慣れてるから」
【マリン】「うわあ! こ、こんなの飲み慣れてるんですか!? すごいです……」
【葵】「うう、砂糖。砂糖をくれ。さすがに辛い」
【リュート】「あはは、はい、どうぞ。葵さんでも厳しかったかー」
【葵】「悪かったな……うう……菓子で舌をなだめねば……」
【マリン】「うう、アップルパイがこんなにおいしいなんて……っ」
【リュート】「大げさだなあ」
【アクア】「すごいね……リュート」
【リュート】「え?」
【アクア】「……リュートはおとなね」
【リュート】「……」
【マリン】「ですよね〜……私たちはまだ、きっと舌が子どもなんですね……」
【葵】「そうじゃのう。好き嫌いはこれでもないつもりだったのだが……。世界は広い……」
【アクア】「あれがおいしくなる日が来るのかしら。ほんとに……」
【葵】「さあのう」
【マリン】「なんか、絶対無理な気がしますよねー。普通のコーヒーもなんか苦手になりそうです……」
【リュート】「……そんなことないよ」
【マリン】「はい?」
【リュート】「いつか、普通に飲めるようになるよ」

——そうして、喉に流れ込むその匂いに酔った。
(あ、おいしい)
心から、そう思った。
大人か。……そうなのかな、僕はもう。……だといいけど。

【マリン】「そんなもんなんですかねえ〜」
【アクア】「……ですかね〜」
【葵】「まあよい。ミルクを八割入れればそれなりに旨いしの」
【リュート】「あはは。それってすでにコーヒーじゃなくて、コーヒー風味のミルクだけどね」
【葵】「ううっ、いいのだ! 今の私にはこれが精一杯なのじゃ!」
【リュート】「……あはは、みたいだね」

——僕も最初のコーヒーはそうして飲んだ。
苦いだけのそれが、いつかおいしくなるなんて、ちっとも信じられなかった。
でも、久しぶりに飲むそれは、昔の印象とはずいぶん違って。
——少し、僕自身も驚かせる。
(……来てよかったかな)
ちょっとそんなことを思う。
(そして、アークがいなくて、よかった)
——後ろめたい事を思うときは、できるだけそばにいて欲しくない。
何を言ってしまうか、わからないから。
そして。
(……ドキドキしてるのも、悟られたくないし)
——何もかも、見透かされておしまいなんて、一番嫌な終わりだから。
同世代の女の子は苦手だ。僕はアークとは違うから。
アークほど、うまくやれないから。
そういうところを見られるのは、嫌だし。
(……隠していることも、気づいて欲しくないから)
——叶わないものに心をよせるのはもう、嫌だから。
(恋はしたらいけないよ、リュート)
僕が大人だというのなら。
——ちゃんと、ちゃんと諦めないと。
(でも、かわいいな)
三人の女の子がわいわいと、僕の側で笑ってくれる。
手を伸ばしたらすぐ届く距離。
——でも、伸ばしたらいけない距離。

○暗転。

揺らぐ。心の中。
幸せで、綺麗な時間を僕はたゆたう。
広場で人待ちしている間の、あの憂鬱を思い出す。
そして、ほのかな、ちいさな期待。
(僕が来て、喜んでくれたらいいんだけど)
——三人は笑ってる。……それが僕の心を揺らす。いつも揺らす。
そして、自分に絶望する。
(……アークがいなければ、なんてどうして思っちゃうんだろう)

○復帰。

【マリン】「あっ、そういえば、そろそろ第二弾が焼き上がる時間です! 取ってこないと!」
【アクア】「すぺしゃるで、びゅーてぃふるな、ましょーなケーキ……」
【葵】「うむ、期待せい。リュート。私とアクア殿の合作じゃぞ!」
【リュート】「えっ……これで全部じゃないの?」
【マリン】「あ、ここにあるのは全部私が作ったんです。メインの大きなケーキはふたりが作ったんですよ」
【リュート】「えっ……そ、それこそ人員の配分を間違ってるんじゃ……」
【アクア】「……へー」
【葵】「……ほほう?」
【リュート】「う……いいえ、なんでもないです。ありがたく頂きます」
【アクア】「うん……ちょっとまっててね……」
【葵】「心配するな! これでも、結構上手になったと言っておろうが! よし、取りに行くぞ。アクア殿!」
【アクア】「……あいあいさー」

○部屋から去る足音。

【マリン】「あはは、そんなに心配しなくっても、まずくないと思いますよ?」
【リュート】「……信じてるよ。マリンさんの言葉を」
【マリン】「アクアさんと葵さんを信じてあげて下さいよー。すごーく、張り切ってたんですよ? ふたりに食べてもらおうって」
【リュート】「……ああ、それはごめんね。アークが来なくて」
【マリン】「……」

○その言葉にマリンの立ち絵 悲しげに変化

(あ)
息を飲む。
(……ああ、また、やっちゃった)
——もっと言い方はあるのに。
でもため息はつけない。……だからまた。……僕は笑う。

【リュート】「うん、でも……次の機会もあるしさ」
【マリン】「リュートさん」
【リュート】「なに?」
【マリン】「……コーヒーの煎れ方、後で私にも教えてもらえませんか?」
【リュート】「え……どうして? おいしくなかったでしょう」
【マリン】「でも、いつかおいしくなるんですよね」
【リュート】「……」
【マリン】「……ねっ?」
【リュート】「……そうだね。いいよ。……そんなことでよかったら」
【マリン】「はいっ♪」

そうして……にっこりと。何でもなかったように彼女は笑う。
(……ごめんなさい)
救われる。……コーヒーも飲めない彼女に。

○足音。

【アクア】「おまたせー……」
【葵】「……おまたせじゃ……」
【マリン】「あっ、アクアさん。葵さん! お帰りな……さ……い?」
【リュート】「……なあに……それ……?」
【アクア】「……ケーキ……」
【葵】「……だったもの、かの?」
【マリン】「……」
【リュート】「……」
【アクア】「……でも、あいはたくさん詰まってるし……どうぞ」
【マリン】「きゃー! さすがにこれは、食べられないですよー! 真っ黒、ムラサキーー!」
【葵】「うーん……予定では桃色になるはずだったのだがのう……」
【アクア】「そうよねえ……絵の具ではちゃんと薄まったのにねえ……」
【マリン】「ああーん! あれほど余計なものは入れたらダメーってー!」
【アクア】「おりじなりてぃー……」
【マリン】「食べ物にしてから言って下さい、そういうことは!」

○暗転。

どたばた、どたばた。
真っ黒焦げと怪しい色のケーキが切り分けられる。
四等分できっかりサイズ。
誰が切っても間違わない。
固唾を飲んでスポンジ(らしきもの)を口に運んだ。

【アクア】「うっ……」
【葵】「げふっ」
【マリン】「ごほっ」
【リュート】「……うっ」

即座にカップのコーヒーを口に流して、事なきを得る。
舌を痺れさせる強烈な苦みが、怪しげなモノの味を消していく。

○一枚絵復帰。

【アクア】「うう……ミルク……」
【葵】「水、水……」
【マリン】「あうう……コーヒー苦いです〜……」
【リュート】「あはは、早く苦くなくなるといいね。おいしい煎れ方を教えてあげるよ。みんなにね」
【マリン】「あう〜……やっぱり私は紅茶でいいです〜!」

——等身大の自分を「これでいい」って言えるのは、いつなんだろう。
コーヒーがおいしく飲めるようになるより、僕はそういうものになりたいのに。
いつかできるのかな。あのひとの『予言』の通り。
——それが今だったら、僕はどんなに幸せだろう。

○暗転。

——「きっといつか、現れるさ。……あんたにとっての運命の人が」

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