○補足 ボビー主人公ですが、声はつきません……(笑)。
○暗転。
まず、無知な君のために自己紹介をしてあげよう。
私の気遣いに涙を流して感謝するといい。キシャー。
○一枚絵 ボビーアップ適当にキリヌキ。
私の名前はボビー。人形の国の王子である。
このヒゲは、高貴な家に生まれた者の証しであり、見る者が見れば跪いて頭を垂れるであろう。
もちろん貴族にありがちな、頭がパーとかプーとかでは、私は断じて、けっしてない。
カミソリのように光って唸る、名利、明哲を兼ね備えたスーパーボーイなのだ。
スゴイ。スゴイって言え。キシャー。
服のセンスも時代を先取りして、ほら、ナウかろう?
——今、ちょっと眉をしかめなかったか? まあ、心の広い私だから、見なかったことにしてあげよう。
なんてったって、アイドル。
この程度のことは『にちじょうちゃめしごと』である。
ん? なにか違うか? 細かいことは気にするな!
——そんな百八十度全方位、非の打ち所のない私だが、最近悩んでいることがある。
私の、人間の国での友人であり、パートナーのことなのだ。
彼は私ほどではないが、極めて優秀であり、美しい外見を持つ。
浮き名に関してはもはや数える程もバカらしい。
要するにモテることは確か……なのだが。
(ふっ、神も罪作りな。このボビーが側にいては、多少の輝きでは打ち消されてしまう……)
時に親友であるということは悲劇を生む……。
その実例をこれからお話ししよう。
○プルートの部屋。
【プルート】「あ、ボビー殿! ごきげんよう。アロランディアにはもう慣れましたか?」
【ボビー】「ああ、もちろんだよ。ここは海の綺麗な素敵な国だね、プルート殿」
【プルート】「ボビー殿に褒めて頂けるなんて光栄です。こんな辺境の小国に、ボビー殿のような方がいらして頂けるなんて……。このプルート、一生の思い出にしたい出来事です」
【ボビー】「そこまで言って頂けるとは嬉しいな。でも、自信を持ちなさい、プルート殿。ここは大陸にはない、オリジナリティ溢れた何かがある。辺境などとは言わないことさ☆」
【プルート】「ボビー殿……な、なんてお優しい……。嬉しいです」
【ボビー】「はっはっは、いやいや、そんなそんな」
【ソロイ】「プルート様、政務のお時間です……とと、失礼致しました。ボビー殿とお話でしたか」
【ボビー】「やあ、いいんだよ。ソロイ殿。ご機嫌伺をしにきただけだから。仕事を邪魔したらいけない、退散するよ」
【ソロイ】「いえ、ボビー殿とのお話は、百の仕事や勉学に勝ります。どうぞ、お話をお続け下さい」
【ボビー】「ええっ? でもなあ……」
【ソロイ】「プルート様はこれからこの国を背負って立っていかれる身。ぜひとも、ボビー殿の素晴らしい見識に触れて、責任感のある素晴らしい大人になって頂きたい」
【プルート】「あ、もしよかったら……でいいんですよ。ボビー殿はお忙しいでしょうし」
【ボビー】「いやいや、たいへん光栄なことですが……本日はこれにて失礼致しますよ。やるべきことをする、それは王族の責務です。おろそかにしてはいけない」
【ソロイ】「ボビー殿……なんと素晴らしいお言葉。……見習わなくてはなりませんね」
【プルート】「ええ、心からそう思います。頑張りましょう、ソロイ」
【ソロイ】「はい……!」
【ボビー】「それでは、また明日! アデュー!」
○騎士院。
【リュート】「あっ、ボビー様! こんにちは!」
【ボビー】「やあ、リュート。元気にしているようだね。修行の調子はどうだい?」
【リュート】「おかげさまで、結構やれてます。アドバイス、本当にありがとうございました」
【ボビー】「いやいや、それは元々君が持っていたものだから。私のおかげなんかじゃないよ」
【リュート】「そ、そんなことないですよ! ……ほんと、もっと早くボビー様がこの島に来ていたらなあ……」
【ボビー】「ん、どうしてだい?」
【リュート】「いえ、騎士院に入る前にお会いできたら、人生変わってたかなって思ったんですよ。あはは、すみません。気になさらないで下さいね」
【ボビー】「いや、私で運命が変わるなんてことはないよ。君はきっと今を選んだ。そして頑張っていたさ。私はそう信じるよ。……間違ってなんかいなかったと」
【リュート】「ボビー様……あ、ありがとうございます」
【ボビー】「よしよし、男だろう。泣いてはいけない」
【アーク】「あっ、ボビー様じゃ! なんだよ、来てるなら言ってくれればよかったのに」
【ボビー】「やあ、アーク。いつも君は元気だね」
【アーク】「ふふん、弱気なんて俺のカラーじゃねーだろ。それより来てるなら、試合しようぜ、試合ーー! 今日は絶対一本取る!」
【リュート】「アーク……。ボビー様はお仕事で来てるんだから、自分の都合で振り回したらダメだよ」
【アーク】「えーー、仕事ったって、長老の小言だろ? つまんねーよ、いいじゃんサボったって」
【リュート】「アーク……」
【ボビー】「まあまあ、そうケンカしない。確かに小言をお聞きしますが、ご老人のお小言は時に千金に値するものになることもある。そう捨てたものじゃないですよ、アーク」
【アーク】「そうかな〜……ま、ボビー様が言うならそうかもね」
【リュート】「もう、ボビー様相手だと素直になるんだから。普段ももうちょっとそうすればいいのに」
【アーク】「へん、やる価値のある相手ならいつだってそうするよ」
【リュート】「やれやれ……」
【ボビー】「ははは、まあそのあたりはリュートがフォローしてあげなさい。友達なんだから。それじゃあね、試合のことはまた後日」
【アーク】「ちぇっ、絶対だぞーー!」
【リュート】「また、ご指導お願いしますね、ボビー様! 頼りにしてますから!」
○魔法院。
【ヨハン】「やあ、ボビー様。いらっしゃいませ」
【ボビー】「ヨハン殿、お邪魔するよ。実験の方はどうだい?」
【ヨハン】「おかげさまで順調です」
【ボビー】「期待しているよ。手抜きは許さないからね?」
【ヨハン】「はは、ボビー様は魔法にも精通していらっしゃるから、そんなことはできませんよ。わかっているつもりです」
【ヨハン】「それに……私の魔導師生命にかけて、この計画は成功させたいと思っています!」
【ボビー】「おお、頼もしい! 是非とも実現させてくれたまえ!」
【ボビー】「今まで我々はキュウリと蜂蜜を一緒に食べるとメロン味に! とか、プリンにカレーをかけるとカステラ風味! とか、嘘八百を信じてきた! が、君の研究が身を結べばすべては変わる!」
【ヨハン】「ええ、すべての食べ物を好きな味に……メロンならばメロン、カステラならカステラに変換! これを魔法でやりとげたら、世界の食卓は劇的に変わるでしょう!」
【ボビー】「ああ、そうとも! 米を食ってもメロン味! アスパラを食ってもカステラ! ……これで貧しい人たちにも、メロンやカステラの味を知ってもらえる……すばらしい偉業だ、歴史に残る!」
【ヨハン】「いえ、私は歴史に名を刻むのは望みません……ですが。ボビー様のご英断が後生に語り続けられるといいと……願っています……」
【ボビー】「ヨハン殿……君はなんて欲のない人なんだ……」
【ユニシス】「あっ、ボビー様だ、ボビー様だ!」
【アクア】「あ……きてたんだ……うれしい……」
【マリン】「ボビーさん、こっちこっち! 一緒にお勉強しましょう! ……ついでに、色々教えてくれると嬉しいなあって……えへへ」
【葵】「昨日も一昨日も忙しいと言って、逃げたのだ。今日という今日はつきあってもらうぞ?」
【ヨハン】「こらこら、みなさん。自習時間中でしょう。何を抜け出してきてるんですか」
【ユニシス】「だって、先生。わかんないところ、一杯あるんだもん。四人とも、頭のレベルは一緒ぐらいなんだから、わかんないモンはわかんないよ」
【アクア】「そうそう……わかんないモンはわかんない〜。だからおしえて〜」
【マリン】「教えてくださーーい!」
【葵】「降参じゃ〜!」
【ヨハン】「やれやれ……ボビー様もご予定があるでしょうに。ねえ?」
【ボビー】「……やれやれ、これだけの女性の頼みとあれば、仕方ないね。午後の予定はキャンセルするとするか」
【ユニシス】「やった! うれしい!」
【アクア】「やった〜。……待ってたよ」
【葵】「うむ、約束を守るのはいい男の条件だな。……い、いや、良かった。うむ」
【マリン】「……一緒の机でお勉強できるんですね……ぽっ」
【ボビー】「さあさあ、それじゃあ始めましょうか。はっはっは、楽しいなあ!」
【ユニシス】「じゃあ、俺、お茶の用意してきますね! とっておきのケーキがあるんですよ!」
【ヨハン】「こらこら、遊びじゃないんですよ。まったく、ボビー様が来るとこれだから……」
【ユニシス】「えへへ、ごめんなさ〜い」
【マリン】「ごめんなさい〜」
【葵】「まあ、許せ。みんなボビー殿が大好きなのだから、仕方ない」
【アクア】「そうよね、しかたないわ……うふふ」
【ユニシス】「あはは」
【ヨハン】「ふふ、ですねえ」
【マリン】「うふふふふっ」
【葵】「はーっはっは!」
【アクア】「……くすくす」
○暗転。
【シリウス】「うっ……ううん……うーーーん。な、なぜ……そんな……ばかな」
【シリウス】「はうっ……!」
○シリウスの部屋。
【シリウス】「……」
【シリウス】「……は」
【シリウス】「……よかった……夢だ。そうだよなあ、現実であるはずがない。あは、あはは、あははははは!」
【シリウス】「なんという嫌な夢を……疲れてるのかなあ……? ボビーが私になっているなんて……しかも、私よりみんなに好かれているだなんて……」
【シリウス】「……あり得ません。断じて! ありません!」
○物が落ちる音。
【シリウス】「とと、すみません、ボビー。別に、あなたを責めているわけではないんですよ。ただ、妙にショックというか、なんというか、願望っていうか……はあ……」
【ボビー】「アアイウフーニナリターイ!」
【シリウス】「……私も、修行が足りないってことなんでしょうか。……ああ、そりゃ夢のようにいけばいいですけどねえ……ふう」
【シリウス】「……顔洗って、シャキっとしますか。……やれやれ……」
○水音。
【シリウス】「……それにしても、妙にリアルな夢でしたねえ……。ボビーが生きていたら、ああいう風に見えるのかなあ……は」
○一枚絵 鏡の中にボビーの顔をした自分
【シリウス】「……」
○暗転。
【シリウス】「うわあああーーー!?」
○神殿廊下。
【マリン】「ひゃあっ!? なな、なんですか、今の悲鳴は!」
【葵】「うぬっ、賊か? シリウス殿の部屋のあたりじゃな!」
【マリン】「何かあったんでしょうか! た、助けに行かないと……!」
【葵】「うむ、そうじゃな! よし、アクア殿! おぬしはソロイ殿に知らせを……アクア殿?」
【アクア】「ふああ〜あ……ねむ」
【葵】「……どうして、そんなに落ち着いておるのじゃ? や、やる気がないぞ?」
【アクア】「だって、オチがわかってるんだもの……。盛り上がらなくていいわよ。……たいしたことじゃないから……」
【マリン】「は?」
【アクア】「……こんしゅーの魔法のじゅぎょうを実践しただけ……。こどもあつかいのむくい……ふふ」
【マリン】「今週の、授業の実践……? それって……あ」
【葵】「……『呪いの歴史とその実践方法を紐解く』……か」
【アクア】「ニヤリ」