8/13[C100]土曜日/東ヘ-07bwebカタログ

24h

猫ト指輪ト蒼色絵本[目次]へ戻る

○暗転。

新しい朝が来た。希望の朝がー……。

○ぢりぢりぢりりりと目覚まし時計。
○一枚絵 寝起きのヨハン。

【ヨハン】「……あさ、しちじ。……あと、ごふん」

○ドアが開く音。みんな三年後の立ち絵です。

【ユニシス】「おっはよーございまーす! 先生! 今日もさわやかな朝ですね!」
【アクア】「おっはよー……ぐう」
【ユニシス】「寝るなっ!」

○ぽかっと殴る音。

【アクア】「あいた。う〜、だって早起きすぎるの……。もうちょっと寝たい……ふあああ」
【ヨハン】「そうですよ、ユニ……もうちょっと……寝てたって……」
【ユニシス】「だめだめだめーーー! そういう堕落した生活しているから、いつまで経っても先生は不健康な肌色してるんですっ!」
【ユニシス】「野菜だって食べないし、日光には当たらないし! 魔法は自然物の力を得て行う学問なんですから、もっと魔導師たるもの、アウトドアであるべきですっ!」
【アクア】「……だって……先生……」
【ヨハン】「はあ……ユニに魔導師のなんたるかを説かれるとは……。私もヤキが回ったモンですね……」

○ぢりぢりぢり〜。目覚まし特大。

【ヨハン】「わっ!」
【アクア】「ひゃあっ! 耳がこわれる〜」
【ヨハン】「ななな、なんですか、この特大の音は!」
【ユニシス】「あ、そうそう、これ俺が作った特大特注目覚まし時計なんだ。先生へ、俺からのプレゼント。『五分防止時計』です」
【ヨハン】「……なんです、その嫌なカンジのタイトル……」
【ユニシス】「もちろん、二度寝をバッチリ防止してくれる機能がついた目覚ましですよ! こういう工作、俺得意だって知ってましたよね?」
【ヨハン】「……はあ……知ってますが……もっと別のモノがいいな、なんて。はは」
【ユニシス】「俺は、これを先生に贈りたいなって、思ってるんです」

○ユニシス、ずーっとニコニコしてます。

【ヨハン】「……」
【ユニシス】「……」
【アクア】「……(かいじゅうだいけっせん……)……」
【ヨハン】「……わかりました、ありがたく頂きます」
【ユニシス】「はい、もらって下さい! それじゃ、先生。これ外出着。洗面器はこれ、歯ブラシはこれ、朝食は台所にサンドイッチが」
【ユニシス】「支度できたら、神殿に面通しに行って下さいね。アクアと。でないと面倒なことになる」
【アクア】「うむ、よきにはからえ。わたしといれば、はんざいしゃでもフリーパス」
【ヨハン】「……は、はあ……。よろしくお願いします」
【ユニシス】「はいはい、それじゃ起きる起きる! 布団干すんですから、さっととどいて下さいね! んじゃ、いってらっしゃーい!」

○扉閉まり、魔法院廊下へ。

【ヨハン】「……」
【アクア】「……まだ眠い?」
【ヨハン】「い、いえっ、覚めました! 覚めたんですけど……。……なんか、色々変わったなあ……って……」
【アクア】「じょのくち」
【ヨハン】「は?」
【アクア】「そのうちわかるし。じゃ、グッドラック」
【ヨハン】「アクアさん!? 一緒に神殿に行くんじゃ……!」
【アクア】「サボるから、プルートに言い訳よろしくね。先生」
【ヨハン】「は!?」
【アクア】「いちばんえらいひとの言うことは聞くモノよ。ヨハン。じゃ、そーゆーことで……おやすみなさーい……ふああ」
【ヨハン】「えっ……えーーー!?」

○暗転。

あれから三年。色々なことがあった。
アロランディアから離れ、別の場所で過ごした。
色々な国をまた、転々とした。
故郷の近くにも行ってみた。ダリスの近くにも。
けれどどれにも入らずに、眺めて去った。それは私の弱さだろう。
何年経てば、どんな風に強くなれば、私は過去を見つめられるだろう。
最初アロランディアに向かったときも、『もう逃げない』と決めたはずなのに。
――体だけでなく心まで止まってしまったのか。そんな自嘲もあった。
けれど今、私はここに戻ってきている。
かつて神の島と呼ばれたこの島に。……なぜここには戻ってこられたんだろう。
(それは彼女がいるから?)
――それはあんまり認めたくないというか、いい年をした男の考える事じゃない気がする。少女小説の中の、キラキラとした男の子たちみたいな……まあ、要するに女々しいというか。

【ヨハン】「まあ……とりあえず一魔導師として、お役に立とうと決めたわけですから。……頑張りましょう」

そう、今日から始まる。新しい生活。

○神殿前。

【マリン】「せんせーい! こっちこっち! こっちですよー!」
【ヨハン】「マリンさん。おはようございます」

神殿の白いオベリスクの影から栗色の髪をした少女が元気に手を振る。
相変わらずの大きな瞳。
三年経てば女性は思う以上に変わるものだが……彼女については当てはまらないらしい。
と、褒めたつもりで漏らしたら、再会の時に涙目になられた。
向こうだって私のことを変わらないと言ったのに。
ちょっと理不尽な気もする。特に女性の涙というのは。

【マリン】「今日から先生、正式に復帰ですから、頑張って下さいね! 早くいーっぱいお手柄を立ててもらって、出世してくれないと困っちゃいますから」
【ヨハン】「はあ、私は別段今の待遇に不満はないんですけど」

特に、院に戻ろうとも本当は思っていなかったし。
残した研究資料にも、もはや未練はない。
本当に大事なものは自分の頭の中にしかないし、私より優れた魔導師がいるならば、資料など見なくても同じ場所にたどり着くはずだから。
けれど、神殿はじめ、騎士院、魔法院、街の人に至るまで、私は「魔法院へ」との希望が強かった。
それはなぜか。

【マリン】「だって、今更先生を『先生以外』で呼び直すのも、違和感あるんですもん。だから、早く『先生っぽく』なってもらわなきゃって」
【ヨハン】「はあ……そんなんでいいんですかね」
【マリン】「いいんですよ、だってもう決めちゃったんですから! それじゃ、中に入りましょう」
【ヨハン】「はいはい」

――国のトップがこの人たちになったっていうのが、大きいんだろうなあ。きっと。

○神殿中。

【マリン】「プルート様〜、ソロイさん〜、先生来ましたよ〜」
【ソロイ】「……いらっしゃいませ、ヨハン殿」
【プルート】「今日からまた働いて頂けるそうですね。よろしくお願いします」
【ヨハン】「お久しぶりです。誠心誠意、また取り組ませて頂きます。私に何ができるかは、わかりませんが」
【プルート】「とんでもない、あなたにしかできないことがこの国には一杯あります。……今度こそ、あなたの力を正しく使わせて下さい」
【ソロイ】「……期待しています」
【ヨハン】「……はい」

正装でないプルート様を見たのは初めてだ。
気取らない軽装をしていると、年相応の顔に見える。あの頃が異常だったのだろうけど。それでも、色違いの目には変わらない知性の光。
血の縛りがなくても、彼は人の上に立つに相応しい人だ。
それは後ろに今でもつき従う、黒い騎士を見ればわかる。

【マリン】「そういえば、アクアさんがいないですね。どうかしました?」
【ヨハン】「あ……。ええと……お、お腹が痛いとかいうことで……その、欠席です」
【プルート】「お腹……ですか」
【ヨハン】「そ、それと頭痛も! こう、ベッドから起きられないカンジで……」

我ながら嘘くさい言いわけだ。
アクアさん、でも私は嘘をつくのがニガテなんですよ。わかってますよね?

【ソロイ】「……まあ、いいのではないですか。今日一日くらい。最近詰めたスケジュールでしたから」
【ヨハン】「そ、そうなんですよ! つ、疲れがちょっと出た感じでして……」

意外だ。この人の口からフォローが出るなんて。
三年経つ間、流石に人が丸くなったのだろうか。
心なしか、身にまとうオーラも柔らかくなった気がする。
(神のご加護です……感謝感謝)
思わず心で手を組み、祈った。

【ソロイ】「今日はヨハン殿がいますからね。その分、頑張って頂ければよろしい。では、細かい説明はすべて省いて、仕事にかかって頂くとしましょうか」
【ヨハン】「は?」
【マリン】「そうですねえ、今日はソロイさんのところ、猫の手も借りたい感じですし。プルート様と私は会議がありますから、同席できないですけど、頑張って下さいね」
【プルート】「たぶん、足腰立たないくらい大変ですけど、きっとヨハン殿ならできますよ。応援してます」
【ヨハン】「いや、ちょっと待って下さい! 説明はして頂かないと! さすがに三年経ってますから、そうすぐにブランクは……!」
【マリン】「しょうがないですよ、アクアさんがサボっちゃったんですから」
【プルート】「穴うめをするのは、部下の務めですよね。それが嫌でしたら、次は上手くアクアさんをコントロールして下さい。そのためにあなたの籍を戻したというのもありますし……」
【ソロイ】「ええ、そうですね。ヨハン殿に戻って頂くにあたって、一番期待していることはアクア殿のコントロールでしたから」
【ヨハン】「ええっ、そうだったんですか!?」

魔法の腕を買われたんだと思っていたのに。

【マリン】「それじゃ、先生。また後で!」
【プルート】「ソロイは全然変わってないですから、覚悟して下さいね。それでは〜」

○ふたり消える。

【ヨハン】「マリンさん、プルート様!? ほ、本当に一発本番ですか!?」
【ソロイ】「同じことを繰り返させないで下さい。それでは騎士院へ参りますよ」

○骨がポキポキ鳴る音?

【ソロイ】「まあ、軽く昼あたりまで、ぶっ通しでいってみましょうか。なにせ、人手が本当に足りないので」
【ヨハン】「……ソロイ様、私は文系だってこと……お忘れですか?」
【ソロイ】「これから先も思い出す必要はないかと思いますが、何か?」
【ヨハン】「……もういいです」
【ソロイ】「では、出発です」

○暗転し、ざわめき。

【アーク】「あれー、先生じゃん。なに、今日から働いてんの? はは、降格おめっとー!」
【リュート】「不謹慎だなあ、アーク。失礼だよ」
【ヨハン】「あれ……おふたりとも」

騎士院のふたり、懐かしい。ふたりとも、少し背が伸びた。
面ざしにはまだ少年の色が色濃くあるけれど、またもう少し目を離したら相当変化するのだろう。

【ヨハン】「そうですよね、リュートさんは今はシリウス様のところで働いてるんでしたっけ」

運命はふたりの間の何を奪い、変質させ、残したのだろう。
――リュートがダリス行きを決めた理由は、実のところ私にはよくわからない。
彼の望みがけしてここでは叶わない事とは思わなかったから。
けれど、それは私から見た場合の話で、きっと彼らにもたくさんの選択と、物語があったのだろう。
私とあの人の物語が、そうであったように。

【リュート】「ええ、今日も来てますよ。僕は早く帰ろうって言ってるんですけど、本国に帰っても暇だから、こっちにいたいみたいで」

――やっぱり来ているのか。ちくりと胸が痛む。
できれば顔を合わせたくないから、さっさと退散したいものだけど。
――いや、あの人が嫌いだとかそういうことではなくて。
(いつも通りに、冷静でいられない気がするから)
――つくづく思う、私は弱い。

【アーク】「ま、覚悟して働いてくれよ。ここの担当、俺だから、容赦しないぜ。港の封鎖が解けて、もの凄い勢いで人が増えてる。
おかげで犯罪も鰻登り。困ってんだ」
【リュート】「確かに活気は出たけど、ガラの悪そうな人も増えたよねえ」
【ヨハン】「そうですか……が、適材適所ということもありますし。ソロイ様にも言いましたが、私は腕っぷしの方はこの通りですから」
【アーク】「ばーか、あんたにそんなもん、ハナから期待してねーよ。魔法、魔法! そっちで役だってもらうから。これ、注文書ね。今日中にどれか一個は仮運転できるようにしといて」

○紙ペラー。

【ヨハン】「ああ、それでしたらいくらでも。良かったです、騎士の真似事はどうかと思っていましたから。はいはい、承り……うわあ」

アークの手から渡された紙ペラを嬉々として受け取ろうとする。
アウトドアより、やはり私はインドア派だ。
が、そこに書かれた簡易な『箇条書き』を目にして青ざめる。
(これは、ちょっと……ひとりでこなすプロジェクトではないのでは?)
【リュート】「アーク、さすがにあの内容を一日でやらせるのは可哀想じゃない? アクアさん、来ないみたいだし、可哀想だよ」
【アーク】「だいじょーぶ、できるできる。できなかったら、立場がマズくなるのはこの人だし、死にものぐるいでやるって」

――また、そういう本当のことを。……リュートの助け船はあえなく撃沈される。
まあ、そもそも逃れられるとは思っていなかったけど。

【リュート】「……酷い奴……。お疲れ様、先生」
【ヨハン】「は、はは……頑張ります……」
【アーク】「んじゃ、後はよろしくな。ほんじゃ」
【リュート】「僕らこれから神殿に行かなくちゃならないので。シリウス様を見かけたら、僕はそこにいるって伝えて下さいね。すぐに戻ってくるようにしますけど」
【ヨハン】「ええっ、私がですか!?」

あの人に。自分から?

【リュート】「……話のタネができていいでしょ? ふふ」
【ヨハン】「うっ……」
【リュート】「じゃあ、また。先生。……僕もどうにかやってますから。それじゃ」

○ふたりいなくなる。

【ヨハン】「……はあ、大人になるもんですね。……私の三年とあの頃の三年は、やはり価値が違うのかな」

当たり前の事を口にしてみる。
――私にもあんな一瞬があったのだけどね。
柱の隙間から見える中庭の光は、すでに昼が近い事を告げている。
手に握りしめた紙を眺めた。
どれかふたり、と言われても……どれもこれも面倒くさい上に、それぞれ連動している。
順番は決められていないようで、決まっている。
せめて二、三日は欲しいところだけど。

【ヨハン】「ま、若い頃を思い出して頑張ってみましょうか」

――あの眩しさに負けっぱなしなのも、大人としてはちょっと格好がつかないから。

○暗転。

【葵】「ヨハン殿〜」
【ヨハン】「……」
【葵】「おーい、おーい。聞こえておらんのか? ヨハン殿〜」
【ヨハン】「……」
【葵】「ふむ、これは全然ダメかの。(息を大きく吸い込んで)……わっ!(フォント大きく)」
【ヨハン】「……」
【葵】「ダメじゃ〜……む〜、仕方ない。のんびり、このあたりで座って待つか……」
【ヨハン】「……きた」
【葵】「ん?」
【ヨハン】「……できました!(フォント大きく)」

○騎士院内部、夕方。

【葵】「うわっ!」
【ヨハン】「……わっ!?」

○ぶつかる音。

【葵】「あたた……い、いきなり立ち上がるな! お、おでこが……」
【ヨハン】「いたた……す、すみませ……あ、葵さん」
【葵】「ふむ、思いの外元気で安心したぞ。アークが無理難題を押しつけたと聞いたのでな。様子を見に来た。ついでにメシもまだであろう? ほれ、さんどいっちじゃ」
【ヨハン】「……は、ありがとうございます。そういえば忘れていました」

葵が差し出した包みはちょっと不格好だ。相変わらず、料理は苦手らしい。
黒髪の美しい異国の少女は、剣と魔法の両方を手に入れて、新しい文武の象徴として騎士の誉れと呼ばれるようになった。
三人の候補の中でも特に複雑な立ち位置を持ちながら、研鑽を怠らなかった彼女には敬服する。
――ほんと、これで味おんちでなければ完璧なのだが。

【ヨハン】「嬉しいですね。葵さんが私に差し入れを下さるなんて。ありがたく頂きます」
【葵】「うむ? 私が作ったなどと、いつ言った?」
【ヨハン】「はむ? (サンドイッチをくわえながら)」
【シリウス】「私ですが、何かご不満が?」
【ヨハン】「……ぶっ!」

○吐き出す感じ。

【ヨハン】「シ、シリウスさまーーー!」
【シリウス】「ひどいなあ、葵殿。私のせっかくの差し入れを、そんな人にあげるなんて。せっかく料理長に教わって、頑張ったのに……」
【葵】「そうは言うても、腹が一杯なのだから、仕方なかろう。食べ物を無駄にしては罰があたる。よいではないか、旨かろう? ヨハン殿」
【ヨハン】「……はは、はい、そうですね……」

一気に味がしなくなったが、そんなことは口に出せない。
目が合わせられない。
(ああ、でも、リュートさんの頼まれ事が)

【シリウス】「そういえば、リュートを知らないかい? さっきから姿が見えないんだ」
【葵】「リュートか? 私は知らぬぞ。朝から今まで、外周りだった故。ヨハン殿、知っておるか?」
【シリウス】「……」
【ヨハン】「……う……」

青い、怜悧な瞳が私を射る。
――あれから何度かやりとりがあったとはいえ、そうすぐに『あのこと』が終わりになるわけじゃない。
それだけのことを、私は。

【ヨハン】「……神殿にアークさんと一緒に行くと、伝言を預かってます。馬車でしたら、私が連れてきましょうか? 丁度、仕事も一段落したことですし」

――一息で言った。なるべく、昔通りに。
アロランディアで、何も気づかなかった頃の私のように。
――慎重に、最大限の気持ちを払って。

【シリウス】「……ふうん、ま、元々休暇扱いでこっちには来てるんだから、いいけどね。もう少し仲良しモードになるには時間がかかると思ったけど……。ま、いっか」
【葵】「あれらは元々親友なのだから、当たり前であろう。何をなめたことを」
【シリウス】「あはは、確かに。……そうかもしれませんね。それじゃ、ヨハン殿。馬車を持ってきてくれるかな」
【ヨハン】「……あ、はい。……本当にですか?」
【シリウス】「なんだい、私に歩いて帰れとでも?」
【ヨハン】「い、いえ、そうではないのですけど。……わかりました。持ってきますね、すぐですから」
【葵】「まったく、シリウス殿は相変わらずお大尽じゃの。それくらい自分でやればよかろうに」
【シリウス】「だって、王子ですもーん♪」
【葵】「やれやれ……困った奴じゃ」

○暗転。馬車の音。

――葵さんとシリウス様の会話を耳に残して、私は夕暮れの中、馬車を引く。
(……まだ、許されているなんて思っていない)
言い聞かせる。それでも歩くたび、揺れるたび、零れるこの気持ち。
私は、嬉しい。……とても。涙は流さなくても。
(……今日はゆっくり眠れそうだ)
きっと、いい夢が。

○馬車の音、ためて。
○一枚絵 シリウスの馬車。

【ヨハン】「って……なんで、私とシリウス様が一緒の馬車に乗っているんでしょう?」
【シリウス】「何故って、君と私の行き先が同じだからだろう。私だって君と乗りたくなんかないよ。けど、馬車がこれしか無いんだから、仕方ないじゃないか」
【ヨハン】「そ、それはそうですが……いつもなら、専用のものがあるじゃないですか!」
【シリウス】「それもしょうがない。元々、私はこの島に『いないこと』になっている人間だ。そういう権力は使えないよ」
【シリウス】「金で動かすにも、今この島は絶対的に馬車が足りなくて応じてもらえない。だとしたら普通に捕まえるしかないし、相乗りも我慢しないといけない。そうだろう?」
【ヨハン】「〜〜〜……!」
【シリウス】「なんだい、そんなに私と一緒に乗るのは嫌かな」
【ヨハン】「いえ、私は構いませんが! シリウス様は、お嫌かと……」
【シリウス】「嫌だよ」
【ヨハン】「……はあ」

即答だ。結構ぐっさり来る。

【ヨハン】「世の中の誰が男との相乗りが楽しいものか。あーヤダヤダ」
【ボビー】「ハヤクマホーインにツカナイカナ!」
【シリウス】「本当だよねえ、ボビー。結構あそこは遠いから、だいぶガタガタ揺れないといけない。ふああ……それじゃ、私は一休みするから、着いたら起こしてくれたまえ」
【ヨハン】「え!?」
【シリウス】「それじゃ、おやすみ。……ぐー」
【ヨハン】「……」

本当に寝た。すごいな、これは特技だ。
(……私が乗っているんですよ?)
――静かな寝息と、揺れる馬車。都合の悪いことを始末するには丁度良い。

【ヨハン】「……『風よ、運べ。若草の調べ』」

○魔法効果。

【シリウス】「……すー……」
【ヨハン】「……よく眠れるおまじない、昔教えましたよね。……少しだけ、思い出しました」

(そうでした、この子も私の大切な弟子のひとりでした)

○夕焼け空。

――夕焼けも終わりかけ。もうすぐ夜がやってくる。
世界を染めるオレンジのペンキは私と馬車とその人にも容赦なく降り注ぐ。
そこには何の境目もない。
――同じ色になる。

○暗転し、魔法院外。夜。

【ヨハン】「ただいま、戻りました〜」
【アクア】「おかえりーー、先生……」
【ユニシス】「あ、先生戻ってき……って、なんであんたもいるんだよ」
【ボビー】「ハーイ♪ ヨバレテトビデテー!」
【ユニシス】「呼んでねーーー!」
【シリウス】「あう、つ、つれないなあ……。しかもしばらく見ない間に……なんかガタイ良くなっちゃって……」
【ボビー】「ツマンナーイ、ツマンナーイ!」
【ユニシス】「あんたを楽しくする義理は俺にはねーよ! ったく、先生! なんでこんな奴、連れて帰ってくるんですか!」
【アクア】「そうよねえ……何しにきたの? ヒマ人?」
【シリウス】「はうっ! な、なんて手厳しいお言葉……。美しい貴女に会いに来た、ではいけませんかマイスゥイート?」
【アクア】「うん、メーワク」
【シリウス】「はうっ……!」
【ヨハン】「アクアさん、そういう傷つく事を言ってはいけませんよ。こんなに大きくなったんですから、ね?」
【シリウス】「そうですよ、いけませんよ! もっと優しくして下さい!」
【アクア】「え〜……シリウスだからいいのに。……ま、もう夜も遅いし、ご飯くらい食べていけば。……量もあるし」
【シリウス】「もっちろん、そのつもりですよ〜! 嬉しい〜なっ♪」
【ヨハン】「え、もしかしてご用事って……」
【シリウス】「そう、貴方の歓迎会目当てです♪」
【ヨハン】「へ?」

○殴る音。

【シリウス】「ぐおっ!」
【アクア】「ロケットパンチ」
【ユニシス】「天罰」
【シリウス】「だ、ダブル……痛いじゃないですか!」
【ユニシス】「ばかっ! 驚かせようと思ったのに、なんでバラすんだ! もー、使えない奴! 出て行け!」
【アクア】「キライ、キライ、ダーイッキライ!」
【シリウス】「ええっ、言ってなかったんですか!? えーー!? そりゃまた……スミマセン」
【ボビー】「ゴメーン!」
【ヨハン】「……アクアさん、その手」

ふと見ると、彼女の手には小さな切り傷。
まだ治りかけ。治癒魔法をかけても、どうしても残る痕。
私の指摘に、彼女は恥ずかしそうにそれを後ろ手に隠す。

【アクア】「……オムライス作ったんだけど……先生、もう飽きてる……?」
【ヨハン】「……いいえ、大好きですよ」
【アクア】「ごめんね。マリンとユニシスにおそわってるんだけど……。やっぱり卵がうまく包めないの」
【ヨハン】「口に入っちゃえば何でも一緒ですよ」
【ユニシス】「うわ、先生! それ、料理に対する冒涜です〜!」
【ヨハン】「じゃあ、今度は芸術的なあなたのオムライスを食べさせて下さいね。……今日から時間は、たくさんあるんですから」
【ユニシス】「……はい」
【アクア】「うん」

○お腹が鳴る音。

【シリウス】「あの〜……私もなんでもいいから食べたいんですけど……ダメ?」
【アクア】「……じー」
【ユニシス】「……じー」
【ヨハン】「へ? あ……えーと……いいと、思いますよ。お嫌でなかったら。……ご一緒に」
【シリウス】「もちろん」

○暗転。

そして、夜になる。賑やかな食卓、ほろ酔い、疲れ。
――そしてまた、明日も朝が。
(頑張って、朝方にしましょうかねえ……)
眠りの淵、まどろみの底で少しだけ、そんなことを思った。

○貯めて目覚ましの音。

【ヨハン】「う〜……」

○一枚絵 寝起きのヨハン。

【ヨハン】「あと五分〜……」
【ユニシス】「ダメって言ってるじゃないですか!」

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