「悪役令嬢と極道P」新連載のお知らせBlog

僕らしく

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○暗転。

気の遠くなるほど長い間、僕たちは人を見てきた。
時に善意で、時に悪意で。注意深く、丁寧に、スミズミを。
だから、わりとナメていたところはあって。……だから。
姿形も、言葉も同じようにできるから、すぐに溶け込めるんじゃないかと思ってて。
——でも、思ってるのとやるのは大違い。
にんげんの体って重い。にんげんの心って面倒くさい。
好きといったらちょっと違って、嫌いといったらちょっと違って。
素直じゃないっていうか、わかりにくいっていうか。
心のままに生きると、すごく大変。
だから、僕はずいぶんマリンに酷い条件をつきつけんだな、って今になって思う。
難しい。
僕が僕のままで生きることは。
とてもとても、難しい。

○扉を開ける音。

【ブルー】「……ただいま」

○一枚絵 アクアとマリンと葵の食卓。

【マリン】「おかえりなさーい! ブルーさん! ご飯できてますよ」
【アクア】「あ……やっと帰ってきた。おそい〜……」
【葵】「はは、お仕事ご苦労。どうだった、外の世界は?」
【ブルー】「……はあ……とっても疲れたよ」

四人がけのダイニングテーブルに、それぞれ座る。
おいしそうな湯気が台所のお鍋から立ち上って、僕のお腹はぐう、と鳴る。
人間の食卓。
肉の体を持たない頃は、食べ物なんて取らなくてよかった。
けど、今はそういうわけにはいかない。
生きているだけでお腹がすく。眠くなる。
ほんと、人間って不便だなあ。やれやれ。

【マリン】「あはっ、本当に疲れてる。そんな頑張ったブルーさんには、ごちそうですよ! 食材からこだわりました! じゃーん!」
【アクア】「……わあお……大きなお魚……」
【ブルー】「わ、すごい。……これ、買ったの?」

そう、人間の世界はお金ってものがいる。
金銀銅で価値が変わるんだって。
それも僕は知らなかった。しかも勝手に作って増やしたらいけないらしい。

【マリン】「あはは、買えませんよ〜! そんな贅沢できません! だから、採ってきたんです! 海から!」
【アクア】「……え゛……」
【葵】「……私は止めたのだが……まあ……マリン殿は頑固ものじゃて……」
【ブルー】「……採ってきたって……僕が外に行ってる間に?」
【マリン】「はいっ! 葵さんに船を漕いで頂いて、船乗りさんも雇って頑張りました! えへん!」
【マリン】「だって、ブルーさんが初めてひとりでお外に出る日ですらね! 奮発しないと!」
【アクア】「……まあまあ……それは……。……なんといったらいいのかしら……」

でーんとテーブルの上に乗ったサカナ。
——ずいぶんマリンとはいい勝負をしたらしい。
満足げな最期だ。いかにもおいしそう。

○お腹の音。

——あ、かなりお腹空いてるみたい、僕。

【葵】「……ま、釣れたのだから良かった良かった。結果よければ、という奴じゃな。マリン殿とつきあうには、この程度の驚きは日常茶飯事と思わねばならぬ。ふう」
【マリン】「あっ、葵さん! それって、なんだかまるで、私が後先考えないって言ってるみたいです! む〜!」
【アクア】「……みたいじゃなくて……言ってるんだと思うけど……」
【マリン】「はうっ! ひひひ、ヒドイです〜! アクアさんまで……。こんなに大きなお魚が釣れたのに〜! 褒めて下さいよ〜! くすん……」
【ブルー】「大丈夫だよ、マリン。僕は嬉しいから。ありがとう、朝早くから頑張ってくれて」
【マリン】「ブルーさん……」
【ブルー】「ふたりとも、それくらいにしてあげなよ。マリンは僕のために一生懸命戦ってくれたんだから。ありがたく頂こうよ」
【マリン】「……はう……あ、ありがとうございます〜!」
【アクア】「……はあ……まあ、いいけどね」
【マリン】「ですよね! はい、それじゃあいただきまーす」
【アクア】「いただきまーす」
【葵】「頂きます」
【ブルー】「頂きます」
【マリン】「……どうでした? 外の世界は」
【アクア】「そうそう……それを聞かなくちゃね……。楽しかったでしょう。色がたくさんあって」
【葵】「うむうむ、土産話を聞かせてもらおう」

期待に充ち満ちた顔で三人は僕をじっと見つめる。
僕はフォークとスプーンを握りしめて(まだナイフってうまく扱えないし)、彼女たちになんて言おうか、思考を巡らせた。

【ブルー】「うーん……」
【マリン】「わくわく」
【アクア】「わくわくわく〜」
【ブルー】「なんか自信なくなって来ちゃったなあ。別に楽しくなかったわけじゃないんだけど」

——嘘をついてもしょうがないので、僕は正直に告白する。
だって、いずればれることだし。

【マリン】「えっ?」
【葵】「おやおや……まだひとりで行動するのは早すぎたか?」
【アクア】「凹んでる? そんなに先生、厳しかった?」
【ブルー】「いや厳しいっていうか……やることなすこと、全部ダメって言われちゃうから。なんか、僕って嫌われるのかなあって」
【マリン】「ええっ、先生たちがそんなことするはずは〜」
【アクア】「……たとえば、どんなふうに……?」
【ブルー】「うん、たとえばね……」

○暗転し、魔法院。タイピング風に時刻表示? 火サス風……(笑)。

AM 10 24

○画面揺れる。爆発音。

【ヨハン(オフ)】「わーーーっ!」∂
【ユニシス(オフ)】「ぎゃーーー!」

○ヨハンの部屋。

【ブルー】「あれ……? なんで……?」
【ユニシス】「お前な、いきなり詠唱なしでそんなデカイ魔力、扱おうとすんなよ! 限界値ってもんがあるだろ!? 第一どうして、アシスタントのお前がメイン部分やろうとしてるんだよっ! 分担ってモンがあるだろ、分担ってもんが!」
【ブルー】「……でも、一気にやった方が早くて簡単だと思って。この青い砂なんて、一日くれたら島一個分くらい、作れるけど?」
【ユニシス】「ばかっ! ばかばかっ! 青い砂ばっかたくさんあったって意味ないんだよっ! もーー、先生ーー! こいつとチーム組むのやだっ! 代わって下さいーー!」
【リュート】「へ? あはは、ああ、はい。すみません。思わず見とれてしまって。すごいですねえ。限界値まで容量が一杯になると、ああいう動作になるんですねえ。人の力ではなかなかそこまでは。いや、いいものを見せてもらいました」
【ブルー】「あ、そう? 見たかったらいつでも見せられるよ」
【ヨハン】「本当ですか!? ……ええ、是非! 耐久値も調べてみた……」
【ユニシス】「……せんせい〜?」
【ヨハン】「……あ……あはは……えと……その……すみません。ブルーさん。人間の世界は物理の世界ですから。あんまり限界を超えたことをすると、物が壊れるんですよ。今みたいに」
【ブルー】「そうみたいだね」
【ヨハン】「で、あんまり壊れると……片づけが大変なので。ほどほどにして頂けると嬉しいと、彼は申しています」
【ユニシス】「……先生! どうしてそんな腰低いんだよっ。バシっと言ってよ、あんま人間離れしたことすんなって! こいつ、今日から外に出すんだぞ! ヘタしたら世界が滅びちまう!」
【ヨハン】「はあ、まあ確かに。……力の制御のために、そもそも院に来て頂いたわけですからねえ。三人方にもよくよく、頼まれておりますし……」
【ユニシス】「そーだよっ。日常生活には支障がなくなったから、こいつにあった仕事を見つけてくれって言われて、面倒みてやってるけど……」
【ブルー】「ん?」
【ユニシス】「どこが日常に支障はねーんだーー! アクアのうそつきーーー!」

○モノが壊れる音。

【ヨハン】「わっ!」
【ユニシス】「……わ!?」
【ブルー】「あれ、なんか構成要素余ってた」
【ヨハン】「……離して、ブルーさん! それ……!」
【ユニシス】「ぎゃあ、しぬーーー!」

○暗転し、どっかんと爆発。

【魔導師A】「わーーなんだーー!?」
【魔導師B】「先生の部屋が吹っ飛んだぞーーー!」

○ちょと間空けて復帰。ざわめき。

【ヨハン】「……」
【ユニシス】「……ブルー……あんた……なあ……」
【ブルー】「あ、よかったよかった。生きてた。とっさに結界張れてよかったよ。命の恩人だね、僕。えへん」
【ユニシス】「えへん、じゃねーーー! どうすんだ、この部屋ーーーっ!?」
【ヨハン】「……あー……見事に粉々ですねえ。あいたた……頭痛が……。よ、予算、予算が……」
【ブルー】「どうすんだって……ああ、壊しちゃったってこと? じゃあ、ちょっと待って。すぐ直すから。僕、できるよ。いっせーの……」

○殴る音。

【ブルー】「あいたっ」
【ユニシス】「あほーー! そういう人間場離れしたことを、公衆の面前でやるなーーー!」
【ブルー】「ええーーー? どうして? これくらい普通だよ」
【魔導師A】「普通……普通?」
【魔導師B】「……あの人、誰? どこかの大魔導師か何か?」
【ユニシス】「ちっとも普通じゃねーーっての! あああああ、もう、今日は終わりっ! 出て行けーーー! できれば、二度とくるなあーーー!」
【ヨハン】「……よさん……よさん……ああ……」

○暗転し、扉の閉まる音。後、復帰。

【ブルー】「……って感じで、意地悪された」
【アクア】「……」
【葵】「……それは、意地悪なのか……?」
【マリン】「あっ、あははは……ま、まあその……ユニシスさんは誰にでもそうだし。慣れですよ、慣れ!」
【ブルー】「そうなのかなあ」
【マリン】「でも、あの〜……ブルーさん。……あんまり反則ワザの魔法は使わない方が」
【ブルー】「え?」
【マリン】「い、いえ。なんでもないです。あ、えっとえっと、午前中は魔法院でしたけど、午後は騎士院でしたよね!?」
【ブルー】「あ、うん」
【葵】「うむうむ! き、騎士院だったらおぬしはむしろ、人以下じゃものな! ナイフも持てぬし! なかなか大変だったろう、構えの型を覚えるのは?」
【ブルー】「うん、騎士院はすごく楽しかった! 僕、かなりリュートとは仲良くなれたと思う」
【アクア】「まあ……それは期待できそうね」
【葵】「うむ、アークもあれで面倒見はよい男じゃしな。よしよし、で、どんな感じであった?」
【ブルー】「ええとね……たしか……」

○暗転し、魔法院。

AM 14 32

○騎士院内部。ピッピーと笛の音。

【アーク】「よーーし、そこまでーー!」
【リュート】「……わあ、結構きつかったなあ」
【騎士A】「へとへとであります!」
【騎士B】「水がのみたいであります!」
【アーク】「おう、飲め飲め。水はタダだかんな」
【ブルー】「うん、僕も喉がかわいたな。いただきま……」

○ぽかっと殴る。

【ブルー】「あいたっ! なにするんだ、アーク!」
【アーク】「あほかーー! お前、涼しい顔して当然のように! お前は飲む資格なしっ!」
【ブルー】「えっ……どうして……? 僕、ちゃんとみんなとチームワークで走ったけど」
【アーク】「ああ、午前の奴から聞いてるよっ! チームワークのない奴なので、そのへん重点的に鍛えろってな!」
【ブルー】「うん。だから一緒に行動したよ? 空が青くてきもちよかったね。僕、ランニング大好き」
【アーク】「……お前のはランニングっていわねーーー! 飛ぶな、空を!」

○ぽかっと殴る。

【ブルー】「いたっ……やだなあ……暴力的……」
【アーク】「斬られないだけありがたく思えーーー!」
【リュート】「あはは……でもさあ、僕もおもしろかったよ。なんか、小説の中のことみたいだった。あれって、魔法なんだよね。ブルーさん」
【ブルー】「ん? そうだよ。理論的には人間にもできるよ。今の僕は肉の体を持ってるから、ちょっと消耗はするけどね。やってみる?」
【リュート】「えっ、僕もできるの?」
【ブルー】「うん、三人くらいだったら一緒に飛べる」
【騎士A】「なっ!」
【騎士B】「マジっすか!?」
【アーク】「おいこら……! お前ら、何タワゴトにのってんだーー!」
【リュート】「だってさあ、アークだって見てたでしょ? ふわふわふわ〜って、すっごい気持ちよさそうなんだよ。子どももついて来ちゃうしさあ。いいよね、あれ」
【騎士A】「リュートさんに同意っす!」
【騎士B】「そそそ、掃除当番代わるんで、一回アレを……お願いします!」
【ブルー】「あはっ、いいよ〜。じゃあ、またみんなでジョギン……」

○ぽかっと殴る。

【ブルー】「あたっ!」
【アーク】「あほ! お前らはもう時間だろ! 仕事行け、仕事ーー!」
【リュート】「え〜、なんだよ。こんな時だけそんな真面目になっちゃって」
【騎士A】「そうっスよ! アークさんらしくないっスよ!」
【騎士B】「っていうか、アークさんも一緒に……!」
【アーク】「ばーーか! ガキじゃあるまいし、あんなもんに釣られっか! とにかく! ブルーはひとりで居残り! ちゃんと足で走ること! そうしないと帰さないかんな!」
【騎士A】「くう〜……残念っす……」
【騎士B】「……ブルーさん、頑張ってくださいねえ……」
【ブルー】「うん、ありがとう。また今度ね!」
【騎士A】「ハイっす!」
【騎士B】「またっス〜!」

○足音。

【アーク】「……で、なんでお前は頑なに残ってんの」
【リュート】「ん? だって僕、騎士じゃないもん。いたっていいでしょ。それに見張ってないと、アクアさんたちに申し訳が立たないもんね。
アークがブルーさんをいじめないかどうか……」
【アーク】「するかっ!」
【リュート】「でもさっきから四回殴ってるし〜。ふふん、言いつけてやろうかなっ」
【アーク】「な……あんなの叩くうちにも入んねーよっ!」
【リュート】「どうかな? 僕が判断する事じゃないけどね〜」
【アーク】「う……」
【ブルー】「言いつける? アクアに? ……そうなるとアークはヒドイ目に遭うの?」
【リュート】「え? ああ、ブルーさんって知らないんだ。あれでもアクアさんってこの国ですごく偉い人だから。公の場だと、アークは言うこと聞かないといけないんだよね」
【リュート】「アクアさんって、陰険で陰湿だから、ご機嫌損ねたらどうなるか……。なんとなく想像つかない?」
【ブルー】「……」
【アーク】「……」
【ブルー】「……うん、ついた」
【アーク】「ぐおおお……お、俺だって騎士になってなけりゃ、あのアマの言うことなんて……」
【リュート】「あはっ、まあ偉くなれば偉くなるほど、色々しがらみはあるよねえ。……まあ、こんな感じで……わかった?」
【ブルー】「え?」
【リュート】「アークの相手はこうするの。そうすると、つきあいやすくなるから。これ、三人から頼まれた僕の授業ね」
【アーク】「はあ!? なんだそりゃ!」
【リュート】「じゃあ、ブルーさん。ジョギング行こうか。僕、つきあうよ」
【ブルー】「うん、ありがとうリュート。お礼に一緒に空、飛ぶ?」
【リュート】「わあ、いいの? 楽しそうだなあ」
【アーク】「だめに決まってんだろっ! リュート! そもそも、そいつが騎士院と魔法院に来ているのは、『人間らしく』するためだ! これはソロイ様の命令でもあるんだぞっ!」
【リュート】「でも、今、僕はアロランディアの騎士じゃないし」
【アーク】「……っ」
【リュート】「あはっ、いいじゃない人間離れしてたって」
【アーク】「よくねえ! 人間は空を飛ばないっ!」
【ブルー】「えー……飛ぶよ」
【アーク】「お前だけだっ! あー、もう! ジョギング、俺も行くっ! 鳥と人の違いを教えてやるっ! ったく、神様ってやつは……非常識だな、もう!」
【リュート】「……あはは、アークに言われたら本物だね」
【ブルー】「そうなの?」
【リュート】「そうなんです。ふふ」
【ブルー】「ふーん……まあ、偽物よりいいよね。褒め言葉だよね」
【リュート】「え……あは、そうだね!」
【アーク】「そこーー! なごんでんじゃねーー!」

○暗転し復帰。

【アクア】「……」
【葵】「……」
【マリン】「……あは……あはは……」
【ブルー】「騎士院はまた行きたいな。リュートがいるともっといい」
【アクア】「あとでアークには優しくしてあげようっと……」
【葵】「……リュートのやつ……。一番の常識人だと信じておったのに……うう……」
【マリン】「あうう……それでその〜……ブルーさんは二回目のジョギングの時……。飛んだんですか?」
【葵】「……」
【アクア】「……ごくっ」
【ブルー】「うん、飛んだよ。人数多いと楽しいねっ!」
【アクア】「……あう……」
【葵】「……あわわわ……」
【マリン】「はううう〜……にんげんばなれ……にんげんばなれです〜」
【ブルー】「え? なんでみんな突っ伏してるの? ご飯、こぼれるよ?」
【葵】「……うう……そ、そうだな。メシは大事にせんとな……。そと、しかしまあ……大変な一日だったようだな」
【マリン】「……さ、最初ですもんね。し、仕方ないですよね。あ、明日からまた頑張ればいいんですよねっ! ……ですよね……?」
【アクア】「わたしに聞かないでちょうだい。……あした、神殿に行くのが……ゆううつよ」
【マリン】「ですねえ……」
【ブルー】「……? 僕、なんかいけないこと、した?」
【葵】「い、いいのじゃ、いいのじゃ。ブルー殿は何にも心配することはない。慣れの問題じゃ、きっと。そうじゃそうじゃ」
【マリン】「そうですよ! 私たちだって、はじめて来たとき大変でしたもん。神様から人になったら、それはもっと大変ですよねえ。大丈夫、大丈夫! うん!」

○暗転し扉を開く音。

【ソロイ】「……本当にですか……?」
【プルート】「……心から……そう思ってます?」

○家の中(ベルの家)。

【ブルー】「あ、ソロイとプルートだ」
【アクア】「……はわっ!? ななな、なんでおふたりが!?」
【葵】「……い、いきなりなんじゃ。ノックもなしで。ぶ、無礼じゃぞ!?」
【ソロイ】「そうですね。が、もう黙ってはいられないと思いまして」
【プルート】「……ブルーさん……物を壊すのはいいんです。……空を飛ぶのも許容しましょう。ですが……」

○猫百匹の鳴き声。

【アクア】「……わっ!?」
【葵】「……なな、なんだっ!?」
【マリン】「きゃーーー、窓の外に猫の大群ーーー!? なな、なんですか、これはーー!」
【ブルー】「あ、そうそう。ジョギング中にね、色々話しかけられたんだよ」
【葵】「……誰に?」
【ブルー】「え? 猫とか、鳥とか」
アークとリュートにも話しかけてたんだけど、なんか聞こえないみたいだから。それでふと思ったんだよね」
【ブルー】「神様でいた頃は、それは人間の方に聞く気がないからだと思ってたんだけど……。実は違うのかな、って。だから、試しに喋れるようにちょいっと……」

○ぽかっと叩く。

【ブルー】「あいたっ! 痛いよ、アクア」
【アクア】「……ちょいっと……そういうことはしないのーー!」
【葵】「ブルー殿ーー!」
【マリン】「ブルーさーーん! もう、ブルーさんらしいけど……! もうちょっと人間らしくして下さいーーー!」
【ブルー】「ええっ!? ……マリンまでそんなこと言うの……。うそつき……」
【マリン】「ううっ、私だって言いたくないです! 言いたくないんです〜! わーーん!」
【ソロイ】「……とりあえず……元に戻して頂けませんか?」
【プルート】「……猫語なのか、人間語なのか、もうさっぱりわかんなくて……」
【ブルー】「……うーん、知性の差があるからなあ……。でも、おもしろくていいんじゃないの?」
【葵】「いかん!」
【マリン】「だめです!」
【アクア】「……おしおきするわよ?」
【ブルー】「う……わかったよ……ちぇっ。……僕らしく生きられないのって、つまんないな」
【マリン】「うう……前途多難……です」

○にゃーにゃーと猫の大合唱。

そして、猫は猫らしい声に。
僕は『僕らしく』生きたいと願い。
今日も人の寝床で月を見る。

○夜空。

【マリン】「……ブルーさん」
【ブルー】「ん?」
【マリン】「……昼間のこと……ごめんなさい」
【ブルー】「どうして、あやまるの?」
【マリン】「……あの、ブルーさんが我慢しなくちゃ、みたいなこと……。たくさん言ったから……。嫌になりました?」
【ブルー】「……」
【マリン】「人間でいるの、嫌になりましたか?」
【ブルー】「……そんなことないよ」
【マリン】「ブルーさん……」
【ブルー】「……楽しいね、人間って。マリン」
【マリン】「はい、とっても!」

○暗転。

——海に似ている。
——泣いたり、怒ったり、苛立ったり、嫉妬したり。
何度も繰り返す、波のように。
けれどひとつとして同じ波の形はない。
人の心。
(僕もそれが持てるようになりたいな)
そうしたら、きっともっと、楽しいのだから。

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