8/13[C100]土曜日/東ヘ-07bwebカタログ

ガラガラ

猫ト指輪ト蒼色絵本[目次]へ戻る

○暗転。

人間には天敵がたくさんいるらしい。
——みんな全部、ひっくるめての敵じゃなくて、ひとりひとりの天敵。
マリンはおばけが怖いんだって前、言ってた。
葵はあやかしというものとずっと戦っていたって。
——『こわい』って感情は、わかる。なんとなくだけど。
胸のあたりが、モヤって、グズグズする感じ。……わかる。その衝動。気持ちの揺らぎ。
だけどね、それはなんとなくで、ワーとかギャーとは、わからない。
——だってわたしはクールでびゅーてぃーな女。
たいていのことには動じないの。
それがいい女の条件なんだから。ふふ。

○アクアの部屋(夜色)。雨の音がする。

【アクア】「……」

○雷効果。

【アクア】「……!」

○雷効果。

【アクア】「……これ……なに?」
【アクア】「どこかの、びじゅあるけいろっくばんど……?」

○雷効果。

【アクア】「……に、しては……おんがくせいのカケラも感じられないの……」

○雷効果。

【アクア】「……っ!」
【アクア】「……先生とユニシスは……お仕事だっけ」
【アクア】「わたしは……お留守番……」

○ひときわ大きな雷効果。

【アクア】「……ひゃあ!!」

○暗転。雷効果。

【アクア】「……まっくら……?」
【アクア】「……う……」
【アクア】「……こ、こわくないもん。こわくないもん。こわくない、こわくないない、ないったらないない。クールなおんな……」

○雷効果。

【アクア】「ひゃっ……!」

○以下のヨハンとユニシス、オフ会話。

【ヨハン】「うわ〜、降られました〜」
【ユニシス】「うう、びしょびしょだ……」
【アクア】「……!」

○ドアを開ける音。

【アクア】「……!」
【ヨハン】「あ、アクアさん。ただいま帰りました。お留守番、お疲れ様でしたね」
【ユニシス】「アクア、タオル、タオル〜! 洗濯もの置き場に積んであるから、取ってきてくれよ。もう疲れて、魔法のまの字も使いたくない……」
【ヨハン】「そうですねえ……騎士院の人たちは人使いが荒……アクアさん?」
【アクア】「……」
【ユニシス】「アクア〜?」
【アクア】「……」
【ヨハン】「どうしました、そんなに歯を食いしばって。……何か、変な物でも食べました?」
【アクア】「先生……」
【ヨハン】「はい?」
【アクア】「わたし……」

○雷効果、画面揺れる。

【ヨハン】「わっ」
【ユニシス】「うわっ! 今のはおっきかったな〜」
【ヨハン】「はは、季節ですからね。しょうがないですよ。まあ、光と音は遠いですから、落ちることは……わっ!?」

○ヨハン消える。

【ユニシス】「あ、先生!? アクア、先生どこに連れて行くんだよ? 床がびしょびしょになるだろーー!」
【アクア】「……ユニシスもっ」
【ユニシス】「わっ? 引っ張るなよっ!」
【アクア】「……かんきんするから」
【ユニシス】「はあ? わ、ちょ、待てって! 服がーーー!」

○暗転し、ドアが閉まる音。

【アクア】「……」
【ヨハン】「……」
【ユニシス】「……おい、アクア……」
【アクア】「……」
【ヨハン】「……せめて、服を脱いだ方がいいと思うんですけどねえ」
【ユニシス】「そうだぞ。風邪ひくし、掃除も大変だし、汚れるぞ」
【アクア】「……」
【ユニシス】「アクア〜! もう! 離せってば!」

○一枚絵 ヨハンとユニシスを掴みながらムリヤリ川の字をするアクア。

【アクア】「……やだ」
【ユニシス】「う」
【ヨハン】「アクアさん、雷が苦手なのはわかりましたから。せめて、服を着替えさせて頂けませんか。このままだとベッドが水浸しになりますよ?」
【ユニシス】「そうだよ、俺たちだって気持ち悪いしさ。お前だって冷たいだろー?」
【アクア】「……つめたくないもん」
【ユニシス】「ありえないだろ! 俺は寒い!」
【ヨハン】「はは、確かに。……ん〜、じゃあアクアさん。こういう条件ではいかがでしょう? 私とユニシスが交代で着替えて、またここに戻ってくるというのは……」
【アクア】「……だめ」
【ユニシス】「なんでっ!」
【アクア】「だめ。ゼッタイ。片方いなくなると、片方の防御が甘くなるもの。その作戦は許可できないわ……」
【ユニシス】「お、お前なあ……」
【ヨハン】「困りましたねえ。腕をこれだけ固められると、魔法も使えませんし……」
【アクア】「……魔導師の弱点は、魔導師が一番しってるの……」
【ユニシス】「お前が先生倒してどうすんだよ! とにかく! はーーなーーーせーーー!」
【アクア】「……はーなーさーなーいーー……」
【ヨハン】「あいたた! ユニ! アクアさん! ひ、引っ張らないで! いたたたたた!」
【ユニシス】「うっ、ごめんなさい……っ。もー、アクア! 雷は別にここには落ちないって!」
【アクア】「そんな保証は、神様しかできないはずだわ……」
【ヨハン】「あ〜、アクアさん。雷の仕組み、知りませんね? あの、説明すればわかると思いますけど、雷っていうのは……」

○雷効果

【アクア】「ひゃあっ!」
【ヨハン】「わっ……」
【ユニシス】「うわあ!」

○暗転。雨音しばらくした後、復帰。

【アクア】「……うそつき……」
【ヨハン】「……あー……今のは大きかったですねえ……」
【ユニシス】「落ちたっぽい?」
【ヨハン】「かもしれませんね。ま、大事になったのなら騎士院の皆さんが血相変えて来るでしょう」
【ユニシス】「ですよね。もう、俺疲れちゃって、眠くって……ふああ」
【アクア】「じゃあ、一緒に寝よ」
【ユニシス】「は!?」
【アクア】「……寝よ」
【ユニシス】「お、お前なあ! できるか、そんなこと! 俺は自分の部屋に帰るーーー!」
【アクア】「かーえーさーなーいーー」
【ユニシス】「かーえーーるーーー!」
【ヨハン】「あたたたた、アクアさん、ユニ〜。ほ、骨が外れます……!」
【ユニシス】「もー! 雷なんか怖がるなよ、子どもだな!」
【アクア】「ちがうもん、怖くないもん。うるさいなって思ってるだけだもん」
【ユニシス】「ウソつけ!」
【アクア】「……う〜」
【ヨハン】「ユニ、もうこれは諦めましょう。アクアさんが頑固なのは、もうわかりきっていることですし」
【ユニシス】「先生!」
【ヨハン】「それに、私はもう疲れて、眠くて、眠くて……ふああ」
【ユニシス】「う……それはそうですけどっ! でも、こいつ一応、お、おんなだし……」
【ヨハン】「私も一緒にいますから、大丈夫ですよ」
【ユニシス】「そ、そういう問題でもっ。……う……いや、先生と一緒に寝るのは嬉しいけど……」
【ヨハン】「と、いうわけで。アクアさん、降参しますから腕を放して頂けません?」
【ヨハン】「せめて、服だけはどうにかしたいんです。このまま寝ると、湿って気持ち悪いし……魔法で乾かすくらいはしたいんですが」
【アクア】「……逃げない?」
【ヨハン】「約束します」
【アクア】「……よし」
【ユニシス】「お前は誘拐犯かっ!」
【ヨハン】「ふー、やっと解放されました。ユニもいつまでも抵抗していると、ずっとそのままですよ?」
【アクア】「……」
【ユニシス】「……なっ、なんだよその目はーー! もういいよ、わかったよ、寝ればいいんだろ、寝ればーーー! もう!」

○暗転。

【ユニシス】「ろうそく消しますよー」
【ヨハン】「はい、いいですよ」
【アクア】「……いいよ」
【ユニシス】「アクア、もう少しそっち行けよ。せまい」
【アクア】「うん。……先生はだいじょうぶ?」
【ヨハン】「大丈夫ですよ。アクアさんが寝相悪くなければ、落ちはしないでしょう」
【ユニシス】「だってさ。がんばれ」
【アクア】「……たぶんダメ」
【ヨハン】「ええっ……」
【アクア】「がんばるけど」
【ヨハン】「……子どもに寝相を期待するのが間違ってるのかもしれませんが」

○一枚絵復活。雷効果。

【アクア】「……っ!」
【ヨハン】「はは、盛り上がってますねえ」
【ユニシス】「そうですね。でも、どんどん遠くなっていってますよ」
【ヨハン】「ええ、朝方になれば止むでしょう。でも意外でしたね。アクアさんが雷が怖いなんて」
【アクア】「……怖いんじゃないんだもん……」
【ユニシス】「明らかに怖がってるだろ!」
【アクア】「……ちがうもん」
【ヨハン】「こ、こらケンカしない。ただでさえ狭いんですから、落ちます。いいじゃないですか、雷が怖いなんて、かわいくて」
【アクア】「え? かわいい……?」
【ヨハン】「ええ、アクアさんだって女の子ですしね。か弱いところがあるんだなあ、って思いますよ」
【アクア】「……そうなのかな? かっこわるくない? ……クールでビューティーなおんなだし、わたし」
【ユニシス】「どこがだよ……」
【ヨハン】「あはは、そのギャップがいいんじゃないですか? 意外性も必要でしょう。こと、恋愛においては」
【アクア】「ふーん……先生はそういうおんなが好みなんだ」
【ヨハン】「げほげほっ! な、どうしてそういう結論に持っていくんですかっ!」
【ユニシス】「……先生、焦ってる」
【アクア】「……図星?」
【ヨハン】「ちがいますっ! もう、寝ますよ!」
【ユニシス】「はーい」
【アクア】「はーい……」
【ヨハン】「まったく、子どもだと思って油断すれば……はあ、やれやれ……」

○雷の音、小さくなる。

【アクア】「……」
【ヨハン】「……」
【ユニシス】「……」
【アクア】「……ねー、せんせー。ゆにしす。起きてる?」
【ヨハン】「……はい?」
【ユニシス】「ん〜……なんだよ……もう寝ろよ〜……」
【アクア】「……うん、寝るよ。……おやすみなさい」
【ヨハン】「はい、おやすみなさい。ふああ……」
【ユニシス】「おやすみい……」

○暗転。

【アクア】「……」
【アクア】「……ふむ」
【アクア】「……そっか……なるほど。こわいものはあったほうがいいのね。マリンと葵……なかなかやるわね……」

そして私も目を閉じる。
眠りの淵にさしかかる時、雨の中で佇む誰かをみた。
自分の中の恐れにおののく、小さなあなた。
大丈夫って言ってあげたい。
それはあっていいものなのよ、って。
わたしはクールでびゅーてぃーなおんな。
だけど、ちょっぴり弱いところもあるの。

【アクア】「カンペキだわ……ふふ……ふふふ……」
【ヨハン】「……。(……寝言……?)」
【ユニシス】「……。(……怪しすぎるぞ、この寝方……)」
【アクア】「ふふっ……ふふふ……むにゃむにゃ……ふふっ……)」
【ヨハン・ユニシス】「……はあ。(……見なかったことにしよう……)」
【アクア】「くー、くー……ふふっ。うふふふふっ……ぐーぐー)」

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