「悪役令嬢と極道P」新連載のお知らせBlog

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猫ト指輪ト蒼色絵本[目次]へ戻る

○暗転。

人間、誰にだって弱みはある。
ありがちなのは、恋人とか、友達、家族とかなわけだが。
——全く、ありがちで嫌な感じだよ。
敵が多いのは自覚してるから、あんま言いたくねーんだけど。
でもさ、オリジナリティがなくたって、いいよな。これに関しては。
仕事とか、大義とか、名誉のために命なんてかけたくねーんだ。
何でもできる、不世出の神童だって、俺のことを評する奴らも多いけど、それでも俺は人間だからさ。
天才だから、よくわかるのかもしれねーけど。バカにはわかんないのかな。
——俺の手は小さい。
この手で守れる人数なんて、たかが知れてる。
千里眼とか予知なんて、俺の体にはついてねーしな。
だから、俺は大事にしたいんだ。
——恋人、友達、そして家族。
どれも、かけがえのないものだと思っているから。
(でも、それを周りの奴らに知られるのはまっぴらゴメンだ)
そんなの、俺のキャラじゃねーだろ。
第一、胸張って言うことじゃねーよ。そんな年も過ぎたよ。
だからさ、困る。本当にこういうのは……困るんだ。
マジで勘弁してくれよ。なあ?

○アークの家、玄関から外が見える感じで。

【アーク】「な……」
【マリン】「こんにちはー」
【アクア】「ちわー」
【リュート】「あはは……こんにちは、アーク……」
【アーク】「……なんでお前らが俺の家に来てるんだよっ!? (特大フォント」
【マリン】「え? だって今日はお休みだって聞いて。だから、遊びに来ちゃいました〜!」
【アクア】「アークくーん、あーそーーぼ……」
【アーク】「……リューーートーーー……」
【リュート】「……ごめん。つい口が滑って。でも、その、葵さんひとりはどうにか防いだから許して」
【アーク】「意味ねーー! こいつら三人、どれかひとりに話したらあっという間に広がるに決まってるだろ!」
【マリン】「残念でしたねえ、葵さん。一緒にいたら、楽しくお出かけできたのに」
【アクア】「そうよね……ソロイにつかまるなんて、運がわるいわ……。三人だったら……たすうけつで即、きょうせいそうさに入れるのに……。ふっ」
【アーク】「おいコラ、俺は犯罪者か? お前らが無断侵入してるんだが、この場合。とにかく、帰れ! 俺は今日、忙しいんだから」
【マリン】「ええ〜、いいじゃないですか、アークさん。すっごく綺麗なお家だし、恥ずかしくないですよ〜」
【アクア】「アークくん、つめたい〜……あーそーぼーーー」
【アーク】「あ・そ・ば・ね・え! なんだ、こういう時だけ子どもっぽい演出しやがって! リュート、さっさと連れて帰れよ!」
【リュート】「……あれ、真面目に怒ってる?」
【アーク】「……怒ってないとでも思ってんのか?」
【リュート】「……ありゃ、そうだったのか。ごめん。……この人たちだったら、大丈夫かなって思ってたんだけど……気のせいか。ごめんね」
【アーク】「なんだそりゃ」
【リュート】「あはは、聞き流して。でも、僕だけはちょっと上がっていい? おばさまに用事頼まれてるんだ」
【アーク】「へ? お前におふくろが?」
【リュート】「そ。その届け物があったから、僕は来たんだよ。終わったらすぐ、帰るからさ」
【アーク】「……わかった、お前は上がれ」
【リュート】「はいはい。お邪魔します。それじゃ、マリンさんたち。後でね」

○リュート消える。

【マリン】「えーーー、ずるいーーー! 差別です〜!」
【アクア】「おーぼーー」
【アーク】「どこがだ。お前らはただの付録だろ。用事がないんだから、諦めて帰れ」
【アクア】「……どうしてそんなに嫌がるの……?」
【マリン】「そうですよ〜。こんなに綺麗なおうちなのに……。リュートさん、アークさんちは楽しいって言ってましたよ?」
【アクア】「そうそう……いろいろな意味で、話題のつきない家だって……」
【アーク】「あ、あいつめ……いらんことを……」
【マリン】「いらんことじゃないですよ! 家族は大事にしなくちゃだめです。アークさん、あんまり家に帰らないそうじゃないですか。こう、仲良くなるにはですね。ぱーーっと勢いで……!」
【アクア】「……殺る?」
【マリン】「ちちち、違います! ぱーーっと、あたって砕けろの精神で、仲良くなろうオーラを出すんですよ! そうすると、たいていうまくいきます! はい!」
【アーク】「……」
【アクア】「……まあ、あれよ。血が繋がってるっていうのは、希有なことだから……。だいじにしとくと、あとあとおとくだし……」
【マリン】「そうですよ! 貴重ですよ? アークさんはもっと素直になった方がいいと思います! 私たちとかには後回しでもいいですから! だから……」
【アーク】「……はあ、要するに。お前らはリュートに俺と両親が上手くいってない、ってことを聞いて来たわけだ。んで、いらん世話焼きのために押しかけてきた、と」
【マリン】「う……」
【アクア】「……」
【アーク】「……バーーーカ」
【マリン】「あうっ」
【アクア】「……バカっていうほうがバカなんだもん……」
【アーク】「じゃ、アホだ。仲、悪くねーよ。ただ、もうお互い大人なんだから、距離置こうってだけだよ。自分で金だって稼いでるんだし。勘ぐりすぎだっての」
【マリン】「そう……なんですか?」
【アーク】「そうなんだよ。……マジで」

(……まいったな。こいつら、どっちも家族がいねーじゃん。ヘタなこと言えねーや)
血縁。家族。唯一のつながり。
——そうだな、確かにそれは大事なモンだ。
言われなくたって、わかってる。いつもなら、コテンパンに言い返すところなんだけど……。

【アーク】「……お前らに心配される程、浅くねーって。仮にも、血が繋がってるんだからよ」
【マリン】「……!」
【アクア】「……」
【アーク】「大丈夫だって」
【マリン】「……そ、そうですよね! あはは、なんか、すみません。押しかけた上に、いらないお節介焼いちゃって……。あ、アクアさん。帰りましょ。ささ」
【アクア】「ええ〜……ケーキ……たべてない……。アーク母のはおいしいって聞いた……」
【マリン】「ケーキなら私が焼いてあげますからっ! そ、それじゃ、失礼……」

○ドアが開く音。暗転。

【アークの母】「あらあら、アーク。こんなにお友達が来ていたの? 嫌ねえ、おもてなしもしないで。失礼よ。みなさん、上がってらっしゃいな」
【アークの父】「おお、綺麗なお嬢さんたちだ。珍しいな、アークが女の子を家に連れて来るなんて」
【アーク】「がっ……!」

○一枚絵 アーク一家との対面。

【リュート】「……だって。ふたりの許可が出たから、いいよね? アーク」
【アーク】「リューーートーーー……! お、お前なあ……!」
【リュート】「いやあ、つい断れなくて」
【アーク】「その言い訳で、全部乗り切れると思うなよ〜……?」
【リュート】「あは、でもせっかくの誕生日なんだから、祝う人は沢山いた方がいいじゃない。そうですよね、おばさま」
【アークの母】「ええ、嬉しいわ。何年ぶりかしら。アークが帰ってきて、リュートも来てくれて、こんなかわいらしい女の子も一緒だなんて」
【アークの父】「そうだなあ、子どもの頃はよくガールフレンドを連れてきてくれたのに、院に入ってからめっきりなくて。
私はつまらないよ」
【アークの母】「あら、あなたったら、私じゃご不満なのかしら?」
【アークの父】「いや、そんなことはあるわけじゃないか! 君はいつだって綺麗だよ!」
【アークの母】「まあ、あなたったら、そんな人前で……ぽっ……」
【アーク】「だーーー! 恥ずかしいから、そういうバカップルぶりはやめろって言ってるだろ! こっちが恥ずかしいんだよ!」
【アークの父】「なんだ、羨ましいなら羨ましいと……」
【アーク】「ちっがーーう! それ以上続ける気なら、俺は帰る! 今すぐ帰るからな!」
【アークの母】「あら、アークはもう帰ってきているじゃないの、ほほほ」
【アークの父】「そうだよなあ、まったくおかしなことを言う子だ」
【アークの母】「さあさあ、それじゃパーティーを始めましょ。リュートがろうそくを買ってきてくれたから、これでケーキが食べられるわ」
【アークの父】「四十本、一気に吹き消せたら、もうひとつプレゼントを買ってあげよう」
【アークの母】「まあ、ほんと? 嬉しいわ、あなた! 頑張っちゃうわ〜!」
【アーク】「……」
【マリン】「……うわあ……」
【アクア】「……けいようしがたい夫婦ね……」
【リュート】「……よかった、僕だけがそう思ってたんじゃないんだ。それも確かめたくってさ」
【アーク】「……おおおお、お前なあ……」
【リュート】「ごめんね?」
【アーク】「お前、謝れば済むと思ってんのかーーー!」
【アークの母】「まあ、アーク。女性の前で怒鳴るなんて、ダメよ。めっ、めっ!」
【アークの父】「何をそんなにカッカしてるんだ。院の食事がよくないのかな? ふむ、久しぶりに中央に行って、私が直接相談に……」
【アーク】「それだけは絶対にやめてくれ! 引退したんだから、もう引っ込んでてくれよ! あんたが来ると、些細なことも大げさになるから!」
【アークの父】「はっはっは、聞いたかい、お前。アークが私を褒めてくれたよ。元とはいえ、白煙の騎士の私が行くと、確かに大事だな。うむ、よしておこう」
【アークの母】「アーク、やっぱりお父さんのこと、尊敬しているのね。嬉しいわ」
【アーク】「褒めてねーーっつの!」
【マリン】「はあ……な、仲の良い……ご、ごかぞくで……」
【アクア】「……まあ、見ようによっては……?」
【リュート】「あはは、おもしろ〜い♪」
【アークの母】「さあ、お庭に行きましょ! お嬢さんたちもどうぞ。アークの昔話でもお聞かせするわ」
【マリン】「わ、本当ですか!」
【アクア】「まあ……わくわく……」
【アークの父】「はっはっは、子どもの頃のアークはかわいかったぞう〜。今でもかわいいけどね!」
【アークの母】「最近反抗期で寂しい限りだけど」
【アークの父】「リュート君ぐらい素直だったらいいのにねえ」
【リュート】「あはは、ありがとうございます。でも、アークも場合によっては素直ですよ」
【マリン】「あはは、そうかも」
【アクア】「……たしかにね……。ふふっ」
【アーク】「もう……勝手にしろよ……寝る。もう俺は寝る!」
【リュート】「あ、立ち会わないと、僕も色々まずい話しするけど、いいの?」
【アーク】「するなよ!」
【リュート】「だったらちゃんと参加しなさい。おばさまの誕生日、年一回の里帰りでしょ。寮に居続けるための、約束なんじゃなかったっけ?」
【アーク】「……うう……わかってるよ、もう!」

○暗転。

——めまいのするような会話を、耳を塞ぐこともできずに聞いている。
小さい頃は、それでもこれが『夫婦』って奴なんだろうと思ってた。
ちょっとウンザリしながらも、いつか自分もこうなるのかもなって。
けど、成長すればおのずとわかる。
こいつらは特殊だ。絶対。そうであってくれ。そうじゃないと俺が怖い。
なんで、よりにもよってこいつらが『家族』なんだ。
勘弁してくれ。
——そう思った時もあった。昔。
(けど、騎士になって何を守るかって問われた時、俺は)
騎士院の試験の時を思い出す。筆記や実技なんて全く覚えていないんだけど。
――「君は何を守るために命をかける?」
俺にとって、弱みになることを口にしたのはその時だけだ。
俺は強く、賢く見られたいし、それだけの努力と研鑽を積んできた。
期待に応え、在りたい自分でいるために、目指し、たどり着くために。
秘密を胸に抱えても、折れずに自分を保てる強い大人に。
(……でも、もうちょっと守りがいのあるマトモな家族だったらなあ……)
思うことくらいは、許して欲しいぜ。
かっこいい俺様のイメージを壊すようなことはしないでくれと。
これでもまだ、思春期なんだから。

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